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【妖精姫】の堕落  作者: 濃姫
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茂みの箱庭

 …帝国の辺境。


 どの領地にも属していない森林の奥深くに、億劫とした風景に似合うはずもない豪華絢爛とした小さな屋敷が建っている。


 屋敷、というよりどこぞの貴族の別荘という表現が正しいだろう。


 屋敷の近くには湖があり、休憩所に見えるそれは装飾がふんだんに使われている。


 もはや王族使用と言っても遜色ない。


 透き通った湖の面は太陽の光を反射させ、一層神秘的な光景を映し出す。


 そんな屋敷と湖を含めた半径一km圏内には精密な魔術が幾重にも張られ、現在の魔法学会の数世紀先を行く一種の展示会だ。


 もしも数多く大魔法使いを輩出してきた魔搭から魔法使いがこの魔術数百を見れば、魔法に関する好奇心よりも絶対的悪質さに呆れ失笑することだろう。


 「誉めちぎりたいほど陰湿で、罵倒したいほど緻密で、二度と見たくない素晴らしい気色悪さだ」


 と称賛にもにた罵倒を吐く者も一人いるかもしれない。


 もちろんそんかもんだから全て禁忌に接触する魔術である。

 

 物騒極まりない屋敷だが、それほどまでの高密な魔術を施された中で済む人間が唯一人いる。


 優に百坪を越える別荘の手入れは全て魔術によって行われるため、常に清潔な空気を【彼女】に提供するのだ。


 一人世界と隔絶された彼女は特に何もすることなく私室で時間を消費する。


 億が一を想定され衣服類は一切与えられず別荘内を歩けるほどの鎖のついた首輪を嵌めさせられてはいる。


 屋敷範囲内は徹底した魔術の温度管理により体温は常に一定に保たれる為体調へ異常をきたすことはない。


 彼女が湖に訪れるのは主人が帰属したときだけ。


 主人の気分次第では湖に、外に出ることを許される。


 それまではずっと、広い広い屋敷で一人ぼっちだ。


 悲観し続けるにはあまりに脆かった。


 憤怒を身に宿し続けるにはあまりに脆かった。


 夢幻のまま異常な愛に包まれることにもはや抵抗はないのだ。


 主人が、彼がそれを正解だというのなら、黒も白に変わりえる。


 かつて敗北と恥辱の証であったはずの首輪は今や幸福感を与える代物へと様変わりしている。


 毎日予定もないのに習慣は消えることなく日が昇る前には目を覚ます。


 横に置いてある温かい目覚し水で顔を洗い、そのままベッドで夢想する。


 ここには紙もペンも、もちろん娯楽品など一つもない。


 だからこそ彼女はただ待つことしかできない。


 彼の帰りを待って、待って、待って…。


 それだけが彼女の光であるかのように操作される。


 外部と連絡を取る手段を奪われ、自分を保ち続ける気力を奪われ、最期には思考する権利すら奪われるのだ。


 人との関わりを失くした孤独は想像に難くないほど寂しくツラいものだ。


 だからこそより依存は深く、逃れられないものとなる。


 お腹が空く頃に用意される朝食を食べた後はゆったりとお昼寝をする。


 …ガチャリ


 待ちに待った扉の音。


 うとうととした目がパチリッと開いた。


 ベッドからのそりと起き上がり彼の元へ歩みを進める。


 彼も私に足を進めその大きな手を頬に伸ばした。


 「いい子にしてたか…?」


 完全に上位の存在だけが為せる物言いに、頬を赤く染め多幸感に酔いしれている彼女も彼女だ。


 ハッキリと首を縦に降った。


 自信満々に褒めてと目を蕩けさせる彼女に魅了されているのは男も同じ。


 四年前、あるときをきっかけに言葉を失ってから今頃主人以外まともに喋る人間もいない為元に戻る兆しは見えていない。


 この珍妙な関係になって早四年。


 裸体という情欲擽る姿で帰りを待つ彼女に彼は一度も手を出していない。


 何故か…。


 彼女にもそのぐらいの知識はある。


 だからこそその理由は、考えないように蓋を閉じていた。

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