結婚初日に「君を愛することはない」と言った旦那様が、その直後テレパシーで『というのは嘘で、俺は君のことを心の底から愛している』と言ってきた!?
「シャルロッテ、俺が君を愛することはない。そのつもりでいてくれ」
「……はい。承知いたしました」
数え切れないほどの使用人たちに囲まれる中、今日から夫となるラインハルト様に、氷のように冷たい眼でそう言われた。
半ば予想していたこととはいえ、面と向かって言われると心に鉛を付けられたような感覚になる。
やはりラインハルト様は、お飾り妻を欲していただけだったのだわ。
『氷の貴公子』と名高い、美貌と名声を兼ね備えたラインハルト・アイヒベルガー侯爵閣下が、私みたいな下級貴族の娘を妻に娶ろうだなんて、おかしいと思った。
女として、一人の男から愛されたいというささやかな夢も、今日で終わったのね……。
『というのは嘘で、俺は君のことを心の底から愛している』
「――!?」
その時だった。
私の頭の中に、ラインハルト様の声が直接響いてきた。
これは――!?
『くれぐれも表情は変えないでくれ。周りの人間に俺たちがテレパスだということがバレたら、お互いの命が危ないんだ』
『っ! は、はい』
必死に平静を装いながら、テレパシーで返事をする。
まさかラインハルト様もテレパスだったなんて……。
我が国には数万人に一人という割合で、テレパシー能力を持つテレパスが生まれるという言い伝えがあった。
ただ、テレパス同士でないとテレパシー能力は作用しないため、自分の周りにテレパスが一人もいなかった場合は、生涯自分がテレパスだということに気付かない人も多いという。
私は家庭教師だったエルマ先生がテレパスだったことで、自分もテレパスだということが判明したのだけれど……。
何故かエルマ先生からテレパスだということは誰にも言ってはいけないと厳命されていたので、家族にさえ秘密にしていたのに。
夫となるラインハルト様もテレパスだったなんて……。
何という運命の悪戯かしら。
――いや、待って!?
ラインハルト様もテレパスだったという事実に衝撃を受けてスルーしかけたけど、今ラインハルト様、『俺は君のことを心の底から愛している』って言わなかった!?!?
あわわわわ……!?
全身に急速に血が巡り、頭が沸騰しそうになる。
――そして更に待って……!
ラインハルト様は、『テレパスだということがバレたら、お互いの命が危ない』とも仰ってたわ。
あまりに情報量が多すぎて、もうどうにかなりそうよおおお!!!
『詳しい話は後だ。今は一旦、自室で休んでくれ』
『は、はひっ!』
私も今は、ラインハルト様の顔まともに見れないです!
「彼が家令のツェーザルだ。この家のことは、ツェーザルが取り仕切ってくれている」
「ツェーザルと申します。どうぞよろしくお願いいたします、奥様」
「ど、どうも……」
ツェーザルさんは家令というよりは、軍人と言ったほうがしっくりくるような威圧感のある風貌をしていた。
私のことも値踏みするように見下ろしてきて、何だかちょっと怖い……。
「そして彼女がメイド長のパウラ。今後君の身の回りの世話は、主にパウラに見てもらうことになる」
「あらあらまあまあ、坊ちゃまにもこんなに可愛らしい奥様が出来るなんて、このパウラ感激の極みですわ! こう見えて実は坊ちゃまはお優しい方ですので、どうか嫌わないでやってくださいましね」
「パウラ、いい加減俺のことを坊ちゃまと呼ぶのはやめてくれ。もう俺だって、子どもじゃないんだ」
「あらあらまあまあ、爵位を継いだとはいえ、わたくしにとっては坊ちゃまはいつまで経っても坊ちゃまでございますよ」
パウラさんはふくよかな体型の中年女性で、とても朗らかな雰囲気を醸していた。
うん、この人はいい人そうでよかった。
「さあさあ奥様、このパウラが奥様のお部屋に案内いたしますね!」
「あ、ありがとうございます。――!」
去り際、ツェーザルさんが私のことを睨んでいたような気がしたのだけれど、た、多分気のせいよね……?
「さあさあ奥様、こちらが奥様のお部屋でございます」
「わぁ」
あまりに豪華絢爛な部屋に、思わず溜め息が漏れる。
ここに比べたら、実家の私の部屋なんて牢獄に等しいわ。
お飾り妻とはいえ、こんないい部屋をあてがってもらって本当にいいのかしら?
「もう少しでお夕飯の準備が整いますので、それまでおくつろぎください。何か御用がございましたら、いつでも呼び鈴でお呼びくださいましね」
「あ、ありがとうございます」
「ホホホ、それでは失礼いたします」
パウラさんはニコニコしながら、部屋から出て行った。
……ふぅ、あまりにいろんなことが一遍に起きすぎて、ちょっと疲れちゃったわ。
私は十人くらいは寝れるんじゃないかっていう豪奢なベッドに、ボフンと横になった。
『シャルロッテ、もう部屋にはついたか?』
「――!?」
その時だった。
またしてもラインハルト様の声が、頭に直接響いた。
あわわわわ……!
『は、はい! こんな身の丈に合わないお部屋を用意していただいて、きょ、恐縮です!』
『フッ、そんなことを言わないでくれ。君は今日から俺の愛しの妻なんだ。そのくらいさせてほしい』
い、愛しの妻……!?
はわあああああ!!!
クールなお顔に反して、何でラインハルト様はテレパシーだとそんなに甘々なんですか!??
『まずは事情を説明させてほしい』
『あ、はい』
確かにいろいろと訊きたいことはあります。
『ただ、その前に一つだけよろしいでしょうか』
『ん? 何かな』
『ラインハルト様は、今どちらにいらっしゃるのでしょうか?』
テレパシーの有効範囲は十メートルほどしかない。
もしも廊下で立ち話ならぬ立ちテレパシーをされてるんだとしたら、いたたまれないわ。
『ああ、俺も自室にいるよ。君の隣の部屋だ。ベッドに横になって、君を想っている』
『なっ!?』
コンコンというノックの音が、ベッドに隣接している壁から聞こえてきた。
はわわわわ……!?
こ、この壁のすぐ向こうで、ラインハルト様もベッドで横に!?
それってもしも壁がなかったら、まるで同衾してるみたいじゃない!??
またしても血液が急速に顔に集まっていくのが自分でもわかる。
『さて、どこから話そうか』
が、そんな私の困惑を知ってか知らでか、ラインハルト様は事もなげに話題を変えてきた。
『まず、俺は君がテレパスだということは随分前から知っていた』
『え!? そうなんですか!?』
私がテレパスなのを知っているのは、この世でエルマ先生しかいないはずなのに……!
『ああ、エルマ女史から聞いたのさ』
『エルマ先生をご存知なんですか!?』
『うむ、彼女は我々の保護対象だからね』
『保護対象?』
とは?
『……実は我が国では密かに、テレパス狩りが行われているんだ』
『テ、テレパス狩り!?』
『しかもそれを裏で指揮しているのは、他ならぬ――国王陛下なんだよ』
『――!!?』
あの国王陛下が!?
陛下とは夜会でお会いしたこともあるけれど、とても温厚で慈しみ深い方だった。
その陛下が、そんな恐ろしいことをなさっているなんて……。
にわかには信じられない……。
『何故陛下は、そんなことを?』
『それはまだ調査中だ。ただ陛下が黒幕であることは間違いない。現に俺の仲間だったテレパスも、何人か陛下の手の者に暗殺されている』
『そ、そんな……!』
今度は一転、身体中の血が冷えて寒気がしてきた。
エルマ先生がテレパスであることを絶対誰にも言ってはいけないと厳命していた理由が、今わかった……。
『だから俺たちは密かにテレパスを保護する組織を設立し、陰ながらテレパスを監視しているんだ』
『そうだったのですか』
『失礼ながら君のことも、ここ二年ほど監視させてもらっていた』
『そ、それはどうも……!』
まさか二年もラインハルト様に守っていただいていたなんて……!
嬉しいやら恥ずかしいやらで、感情がぐちゃぐちゃだ。
『最初は保護対象の一人に過ぎなかったんだが、次第に君に惹かれてしまってね』
『っ!?』
ラインハルト様!?
『意志の強い真っ直ぐで綺麗な瞳。動物を愛でる際の慈愛に満ちた顔。苦手なことからも逃げずに、何度も何度も挑戦する尊い精神力。見れば見るほど、もっと近くで君を見たいと思うようになってしまった』
『はうぅ!?』
ラインハルト様ぁ……!!
『君は気付いていなかっただろうが、俺は図書館で君の隣の席に座ったこともあるんだよ』
『マジですか!?』
全然気付かなかった……。
私、本を読んでる時は周りが見えなくなっちゃうからなぁ。
『本当は俺が君と接触することは、危険だということはわかっていた。この屋敷の中にも、国王陛下のスパイが紛れ込んでいるという情報があったからね』
『っ!?』
スパイが……!?
この時私の頭に浮かんだのは、ツェーザルさんの私を値踏みするような顔だった。
ま、まさか、ね?
『だが、それでも俺はどうしても我慢ができなかった。君を他の男に取られるくらいなら、何としてでも俺のものにするしかない。だから危険を承知で、君の家に結婚を申し込んだんだ』
『なっ!?』
ラインハルト様からの愛が大きすぎて、もう私どうにかなりそうッ!
前世の私、どれだけ桁違いの徳を積んだというの!?
『だが、もしも俺が自分の意思で君との結婚を望んだとスパイに思われたら、お互いがテレパスだとバレてしまうかもしれない。だから心苦しいが、表面上はお飾り妻を娶っただけというていにしておく必要があったんだ。どうか許してほしい』
『そんな! 許すも何も、ずっと見守っていただいていたことには、感謝の気持ちしかありません! し、しかも、妻にまでしていただけて、こここここ、光栄でしゅ!』
ひあっ!?
テレパシーなのに噛んじゃったッ!
『フフ、君は本当におもしろい女性だな。表立っては気持ちを伝えられない分、テレパシーではこうして遠慮せず愛を囁くつもりなので、よろしくな、愛しのシャルロッテ』
『ぬへっ!?』
そ、そこはなるべく手加減していただけないと、私の心臓が……。
「奥様ぁ! パウラでございますぅ! お夕飯の準備が整いましたので、どうぞお越しくださいませぇ」
「――!」
その時だった。
扉の向こうからパウラさんの元気な声が聞こえてきた。
『さて、ここまでのようだな。ではまた、食堂でな』
『は、はい!』
こうしてラインハルト様からの、テレパシーによる溺愛生活が始まったのであった――。
食堂で再会したラインハルト様は、相変わらず氷のように冷たい眼をしているにもかかわらず、テレパシーでは『今日の夕飯は君の好きなハンバーグを用意したよ。デザートにはフルーツタルトも準備しているから、楽しみにしていてくれ』なんてことを言ってくるし、市場にお出掛けした際も、まったくの無表情で私のほうを見向きもしないのに、『あの宝石は君の瞳の色と同じだね。いつか君に贈りたいな。ああでも、あっちのネックレスも可憐な君に似合うと思わないかい?』なんて歯の浮きそうな台詞を恥ずかし気もなく吐いてきた。
そんな生活を続けていたら、私もラインハルト様のことを本気で好きになってしまうのは、ある意味必然だったのかもしれない――。
「あら?」
麗らかな春の陽射しが心地良いある日。
私がラインハルト様のお部屋の前を通りかかると、扉が少しだけ開いていた。
ラ、ラインハルト様のお部屋って、どんな感じなのかしら?
表向きは仮面夫婦である私たちは、未だにお互いの部屋に入ったことは一度もない。
一応私たちは夫婦なのだし、ちょっとお部屋を覗くくらいはいいわよね?
そっと隙間から中を覗くと、机の上に堆く積まれた書類の束が目に入った。
あらあら、ラインハルト様って意外と片付けが苦手なのかしら。
私もそうだから、共通点が見つかって少し嬉しい。
「あっ!」
その時だった。
その書類の束がドシャリと崩れ、床に散乱してしまった。
大変だわ!
慌てて部屋に入ると、中には誰もいなかった。
そういえば今日はラインハルト様は、外で大事なお仕事があるって言ってたものね。
勝手に書類に触るのはあまりよくないんだろうけど、元に戻しておくくらいならバチは当たらないわよね。
私は散乱した書類の束に手を伸ばしかけた。
――が、
「――!」
その中にある一冊の開かれたノートに、私の目は釘付けになった。
それは文面的に、日記のようだった。
開かれたページには昨日の日付で、こう書かれていた――。
『遂にスパイの目星が付いた。
だが、まさかあいつがスパイだったなんて。
とても信じられない。
長年俺のことを支え続けてくれていたのに。
いずれにせよ明日になれば全ては解決する。
今日はもう早めに休むとしよう。』
スパイの目星が付いたですって!?
しかも長年ラインハルト様のことを支え続けていた人ってことは……。
「奥様、こんなところでどうなさいましたか」
「――!」
無機質な声がしたので慌てて振り返ると、そこにはツェーザルさんがいつもの値踏みするような顔で立っていた。
や、やっぱりこの人が――!
「い、いえ、この書類が倒れちゃってるのが見えたものですから、片付けようかと」
「ああ、旦那様には本当に困ったものです。私がやっておきますので、どうか奥様はお戻りください」
「じゃ、じゃあ、お願いします」
さり気なく日記を閉じて、ツェーザルさんの横を通り過ぎる。
――が、
「……奥様、お待ちください。もしかして今、旦那様の日記の中を見ましたか?」
「――!!」
いつになく怖い声色で、ツェーザルさんに呼び止められた。
ヒィッ!?
「くっ!」
「――! 奥様ッ!」
私は全速力で、その場から逃げ出した。
「あらあらまあまあ、そんなに慌ててどうされたんですか奥様?」
「パウラさんッ!」
部屋から逃げて少ししたところで、パウラさんと鉢合わせた。
よかった!
「あの、私、ツェーザルさんに追われてるんです!」
「何ですって……!?」
「奥様ッ! お待ちください!」
「「――!!」」
鬼のような形相でこちらに走ってくるツェーザルさんの右手には、鋭利なナイフが握られていた。
ヒイイイィッ!!?
「奥様、こちらです!」
「は、はい!」
ただならぬ状況を察知したのか、いつもは朗らかなパウラさんが、真剣な表情で私の手を引いた。
「ここなら一旦は安全ですわ」
「あ、ありがとうございます」
パウラさんは古びた書庫の中に私を連れて来てくれた。
書庫の扉を閉めた途端、扉の向こうからドカドカという足音と共に、「クソッ! どこに行きやがったッ!」というツェーザルさんの怒号が聞こえてきた。
足音は程なく遠くに消えていった。
か、間一髪だったわ……。
「奥様、何があったのか、このパウラにもご説明くださいまし」
「は、はい」
こうなったら、全部話してパウラさんには味方になってもらおう。
「……実は、私はテレパスなんです」
「まあっ!? 奥様が!?」
「ええ、でも、何故か国王陛下は裏でテレパス狩りをされてるらしくて……」
「――!」
「同じくテレパスであるラインハルト様は、私のことをテレパス狩りの手から保護してくださったんです」
「そ、そんな……! まさか坊ちゃままで……」
「でも、ツェーザルさんは陛下側のスパイで、そのことがついさっきバレて、私は命を狙われてるんです!」
「そうだったのですか……」
「まったく、こんなところにいらっしゃったのですか」
「「――!!」」
その時だった。
いつの間に扉を開けたのか、ツェーザルさんが音もなく私たちの前に立っていた。
右手には例の鋭利なナイフが光っている。
嗚呼――!!
「死ねえッ!」
ツェーザルさんがナイフを振り下ろしてきた。
ラインハルト様――!
「――が、はっ……!!」
「――!!」
が、ツェーザルさんが振り下ろしたナイフは、私ではなくパウラさんの心臓に突き刺さった。
パウラさん――!?!?
「パウラさんッ!! パウラさああんッ!!!」
「あ……あ……がっ……」
パウラさんは夥しい量を吐血し、ピクリとも動かなくなった。
イヤアアアアアアアア!!!!
「さて、と」
無表情でナイフを引き抜いたツェーザルさんは、私をまじまじと見下ろす。
あ、ああ、あ……!
だ、誰か助けて……。
『――助けて、ラインハルト様ぁ!!』
『シャルロッテ、大丈夫かッ!』
「――!!」
一か八かテレパシーを送ったら、ラインハルト様から返事がきた。
ラインハルト様――!!
『どこにいるんだ、シャルロッテ!』
『しょ、書庫です! 書庫におりますわ、ラインハルト様!』
『わかった、書庫だな!』
嗚呼、ラインハルト様の声が聞けるだけで、こんなにも心強いなんて。
「シャルロッテ!」
「ラインハルト様!」
次の瞬間、いつもはクールなラインハルト様が、ゼェゼェと息を切らせながら書庫の中に入ってきた。
ラインハルト様ぁ!!
「こ、これは――!」
中の惨劇を見て、ラインハルト様は目を見張る。
「……そうか、もうケリはつけてくれたんだな、ツェーザル」
「はい、及ばずながら」
「――!!?」
ラインハルト様!??
「落ち着いて聞いてくれシャルロッテ。――スパイは、パウラだったんだよ」
「――!!!」
そ、そんな――!?
「今にもそやつが奥様の命を奪おうとしておりましたので、私が成敗いたしました」
「――!」
ツェーザルさんに指差されたほうを見ると、パウラさんの右手には小振りなナイフが握られていた。
まさかこれで、私を……!?
「母親同然の存在だったパウラがスパイとは、あまり考えたくはなかったがな」
ラインハルト様は物悲しそうに、パウラさんの骸を見下ろす。
ラインハルト様……。
「よく俺の愛しの妻の命を守ってくれた、ツェーザル。やはりお前は、俺の右腕だ」
「もったいなきお言葉に存じます」
「ツェーザルは元軍人でな。こういった荒事のほうがむしろ専門なのさ。顔が怖いのが玉に瑕だがね」
「この顔は生まれつきでございます」
ああ、じゃあいつもの値踏みするような顔も、ただのデフォルトだったのですね?
何と紛らわしい……。
「あれ? でもラインハルト様、ツェーザルさんがスパイのことを把握されていたということは、ツェーザルさんは私たちの事情をご存知だったということですか?」
「ああ、ツェーザルだけは信用に値する男だったからね。――でも、俺たちがテレパスだということを隠すのも、今日で終わりだ」
「――!」
それは、どういう……?
あ、そういえば、ラインハルト様の日記に『明日になれば全ては解決する』って書かれていたような気が?
「今さっき王太子殿下のクーデターが成功してね、国王陛下は廃位したよ」
「クーデター!?」
今日の私は終始驚いてばかりだわ!
「実は王太子殿下こそが、我々テレパスを保護する組織のリーダーだったんだ。殿下もテレパスだったからね」
「そ、そうだったんですか……」
「陛下が何百人ものテレパスを暗殺していた証拠もやっと明らかになった。これで世論も味方してくれるはずだ」
「……陛下はいったい何故、そこまでテレパスを毛嫌いしていたのでしょうか?」
「うん、皮肉な話なんだが、どうやら陛下もテレパスだったそうなんだ」
「――!!」
そ、そんな――!
「自分がテレパスだったが故に、テレパスのことを恐れていたということらしい。――確かにこの力は、スパイ活動に最適だ。自分の周りがテレパスだらけだとしたら、いつ寝首を搔かれるかわかったものではない。……そうした疑心暗鬼が、陛下を凶行に走らせてしまったのだろう」
「……悲しい話ですね」
王たる者の心の重圧は、私には理解できるものではないけれど……。
「でも王太子殿下は、テレパスを保護する法を制定することを約束してくださっている。――これからはテレパスであることを、隠さなくて済む世界になるんだよ、シャルロッテ!」
「ラインハルト様!?」
感極まったラインハルト様は、私のことをギュッと抱きしめてきた。
ふおおおおおおおお!?!?
『まあ、これからもたまには、こうしてテレパシーで愛を囁くのも悪くないかもしれないけどね』
「っ!」
そう言うなりラインハルト様は、私のおでこに優しくキスを落としたのだった。
ぬおおおおおおおおおおお!!!!
「ふふふ、お安くないですなぁ」
そんな私たちを見つめるツェーザルさんの顔は、相変わらず怖かった……。
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