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7話「この国の普通を疑った日」

「あなた、女王になるなんて馬鹿なこと……本当に言ったの?」

「ええ、言いました」

「笑えない冗談はやめなさい。本気にする人もいるのよ」


 目の前の女は、呆れたようにため息を吐く。女王になると急に言い出したことを馬鹿げていると言うのは、まあ別に良い。

 

 今までと人が変わったようなことを言い出したら、誰だって驚きはするだろう。


「私は本気です。アルビーが国王になったとして、どうなるか考えないのですか?」

「確かに女癖は悪いわ。けれど女嫌いで子供が出来ないよりは良いでしょう?」

「問題は女癖だけではありません。気に食わない者を虐げ、道徳心のかけらもない。まさに暴君です。国民を不幸にする気ですか?」

 

 母親でありながら、女好きな面しか見えていないのだろうか。他にもアルビーには欠点が山ほどあるのに。

 

 彼の場合、下半身に脳みそがありそうだ。けれど、彼の問題はそれだけではない。


「ヴィクトリア……あなたはあなたなりに、国のことを思っているのね」

「国のことを考えるのは当然のことでしょう。国民あっての我々です」

「ごめんなさい……あなたのことを誤解していたわ。思えば、あなたとちゃんと話をしたことってなかったかもしれないわね」


 急にかけられた謝罪の言葉。呆気に取られた。

 あれ程までに冷めた顔をしていたミーナが、急に優しく微笑んでいる。私はこの2週間ほど、彼女のことも観察していた。

 

 けれど、決してあんな柔らかい表情を見ることはできなかった。誤解していた、と彼女は言う。ヴィクトリアとまともに会話をしていなかったと。

 

 会話もなく、わかりあうことはない。2人の間にあった蟠りは、これがきっかけで解けるのかもしれない。


「たしかにアルビーは頼りないわ。まだまだやんちゃなところが抜けないものね。姉としてあなたが心配をしてくれているのはありがたいわ」

「……やんちゃ? 心配?」


 カップを置いて、優雅にこちらを見つめてくるミーナは微笑んでいる。ただ、その柔らかい笑みが気持ち悪いと思ってしまった。

 

 アルビーの生き方は、頼りないとかそういうレベルではない。彼について行ったら壊滅するということがよくわかる。

 やんちゃという表現も私は嫌いだ。やんちゃだから、と言えばなんでも許されると思うなよ。

 

「大丈夫。あなたはアルビーにしっかりするようにと、わざと心にもない事を言ったのでしょう? あなたは女としての物言いは間違っている。ただ、姉として正しいわ」

「何の話ですか?」


 朝倉凛だった私は、ヴィクトリア・ブラウンとして身体を譲ってもらった身だ。彼女の心は、最後まで救われなかった。

 

 ヴィクトリアという名前は、勝利を意味するるしい。そして、私はヴィクトリアに生まれ変わった。それなら、この国で誰よりも勝利が相応しい女になりたい。

 

 心にもないことを私が伝えた? 弟に? そんなわけがないだろうが!

 

「そうね、あなたは国のために生きようとしてくれている。信頼しているわ……だからこそ、あなたのために縁談を持ってきてるのよ」

「縁談など不要です。私は、私のために生きたい。だから私は、私が希望して女王に就きます!」

「まだそんなことを言っているの? もうその話は終わりよ。相手はあなたより19歳上だけど……この縁談がうまくいけば、この国もますますの繁栄が約束されるわ」


 どうしたら良いのだろう。この女、まるで話を聞き入れない。ヴィクトリアの母親は思い込みが強すぎる。

 彼女の中では、アルビーの将来を案じて心にもないことを言ったことになっているらしい。

 

 挙句、私には縁談の話を持ちかけた。それも19歳上って……相手の年齢は38だ。普通ならあり得ないだろう。

 けれどこの世界ではそれが普通なのだろうか。


「私は縁談を受けません。絶対にお断りします」

「……そう。あなたのせいで彼女は職を失い、その後は酷い目にあうかもしれないわ」

「……ノアのことですか?」

「もしかすると、彼女は売られるかもそれないわね……」

「わかりました。縁談、受ければ良いんですね」

「日程はお相手の都合もあるので……また改めて」


 ノアを巻き込むわけにはいかない。ノアに被害がいくことだけは避けたい。彼女は本当に悪くないのだから。

 

 嫌々ながらも縁談の話を呑む。嫌で嫌で仕方ない。なんなら涙が出てきそうだ。けれど、ここで泣いたらこの女が喜びそうな気がして悔しい。

 

 約束は守りなさいね、と口元を吊り上げて去っていく。そんなミーナを見て、あれが母親だと信じられなかった。

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