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40、皆の喝采を受けるロミルダ

「ミケーレ第一王子――」


 涙で頬を濡らしたアルチーナが振り返った。


「魔女アルチーナよ、よく聞け。お前の義理の娘であるロミルダ嬢が、お前を処刑しないでほしいと嘆願したのだ」


「ロミルダが――」


「そうだ。婚約者である余に、お前の命乞いをしたのだぞ?」


「ああ、ロミルダ……! 私はあの子にずっとつらく当たっていたのに、こんな優しさをくれるなんて!」


 ナナの姿をしたロミルダの腕の中からアルチーナは崩れ落ち、井戸に背をこすりつけて泣き出した。


「そうだぞ。ロミルダには感謝してもしきれんだろう」


 ミケーレ殿下がひたすらロミルダを持ち上げてくれる。


「実の娘ドラベッラは私を裏切ったというのに!」


 足元にうずくまるアルチーナの背中を、ロミルダはあわれみのまなざしで見下ろした。


(実の娘に裏切られるなんて―― どう声をかけたらいいか分からない……。けれど、猫ちゃんに吹き矢を射かけるようなドラベッラを、擁護(ようご)したくないわ)


 そのときロミルダは、何か重要なことを見落としている感覚に襲われた。


(猫ちゃんを()殺そうとした残酷なドラベッラは、王太子殺人未遂罪――)


 何かがカチっとはまる寸前、ミケーレが問いただした。


「魔女アルチーナ、フォンテリア王国を乗っ取ろうとした罪を認めるか?」


「もちろんでございます、ミケーレ王太子殿下。どんな罰も受ける覚悟であります」


「寛大な父上はお前の命を奪わず、北の塔に幽閉すると決めた」


「――――」


 アルチーナは我が耳を疑うかのように、顔を上げてミケーレを見つめた。


「ただし残された時間は、お前の魔女の知識を書物にまとめることに費やせとの仰せだ。できるか?」


「も、もちろんでございます! どうぞ私の知識と経験を、王国の役に立ててくださいまし」


 アルチーナは額を石畳にこすりつけ、感涙にむせび、国王をたたえた。


「ああ、なんと寛大な陛下のお裁き! 罪を重ねた私に生き直す機会を与えてくださるとは!」


「それよりロミルダ嬢をたたえよ」


 ミケーレが不満そうな顔をする。


 屋敷の中から侍従たちが出てきて、負傷した騎士団の代わりにアルチーナを北の塔に連れて行く。


「かか様――」


 名残(なごり)惜しそうに振り返るアルチーナに、ナナの姿を借りたロミルダは慈愛に満ちた笑みを浮かべた。


「アルチーナ。これからもアタシはいつでも、お前を空から見守っているからね」


「かか様―― あ、皆さん!」


 アルチーナが突然大きな声を出した。


「井戸の水を飲んではいけません。獣になってしまいます!」


(そういえば何か魔法薬を入れていたものね)


 ロミルダは井戸の中をのぞいてみたが、丸く切り取られた闇が浮かんでいるだけだった。


(私、さっき何か重要なことに思い至ったような―― ま、思い出さないってことは、たいしたことじゃないわね、きっと!)


 深く考える習慣のないロミルダは、それ以上追求しなかった。


 いつの間にかとなりに立っているミケーレが、すり寄ってくるディライラを抱き上げながらロミルダに尋ねた。


「で、ロミルダ。その姿はどうすれば元に戻るのだ?」


「えっとそれは―― その前にミケーレ様! 陛下を説得してアルチーナ夫人の処刑を撤回してくださり、本当にありがとうございました!」


 がばっと頭を下げる四十年前の高級娼婦(クルチザンヌ)に、騎士団や衛兵たちがざわめきだす。


「私を信用してくださったこと、本当にうれしくて――」


「そなたを信用するなど当然ではないか。余はそなたの明るさと優しさに賭けてみようと思ったのだ」


 ロミルダの耳もとに唇を近づけると、こそっとささやいた。


「ほかでもない余が、太陽のようなそなたに救われたからな」


「ミケーレ様――」


 何か言いかけたロミルダだったが、


「ロミルダ様なのですか!?」


「えぇっ、変装していらっしゃるのですか!?」


「いやいやまさか! お胸のサイズがずいぶん違う――」


 無駄なことを言った騎士は、振り返ったナナ姿のロミルダに思いっきり睨みつけられた。


「うほっ! そのお姿だと冷たい目つきもご褒美ですな!」


「余のロミルダになんという暴言を! そちを三割の減俸処分とする!」


「えええっ!?」


 ミケーレ王太子の電光石火の裁定に、騎士はへなへなと座り込んだ。


「ロミルダ様は『変身の粉』を使われたのですか?」


 宮廷魔術師の問いにロミルダがうなずくと、


「それなら水で粉を洗い流せば、元のお姿に戻りますよ」


「そうか。ロミルダ、目と口を閉じろ。飲むなよ?」


 ディライラを石井戸の縁に下ろし、水を汲むミケーレに、ロミルダは心底残念そうな声を出した。


「え~、ミケーレ様! ナナさんの姿、美人じゃないですか? 私しばらくこの外見、楽しもうと思っていたのに……」


「余はいつものロミルダがいい!」


 反抗期の子供みたいな口調で言うと、ミケーレは井戸水でたちまちのうちに「変身の粉」を洗い流してしまった。


「本当にロミルダ様だ!」


「魔女の魔法薬で変身していらっしゃったんだ!」


「俺、ロミルダ様の言葉に感動して泣いちまったよ……」


「ロミルダ様こそ、我らが女神だ!」


 衛兵も騎士も驚いて一様に騒ぎ出す。


 中庭(コルテ)に面した窓が次々と開き、バルコニーにも人々が姿を現した。宮殿で働く人々は皆、息をひそめてバルコニーや窓に張りつき、事の成り行きを見守っていたようだ。


「ロミルダ様がフォンテリア王国を救って下さった!」


「魔女の陰謀から守って下さったんだ!」


 天井の低い最上階に住む使用人たちも、小さな窓を開け手を振っている。


「ロミルダ様ーっ!」


 宮殿の人々の喝采を受けながらロミルダは、やりとげた喜びを胸いっぱいに抱きながら、皆に手を振り返していた。

「ロミルダ、大活躍だったね!」

と思っていただけたら(?)、ページ下の☆☆☆☆☆から応援していただけるとうれしいです!


次話、ロミルダ嬢とミケーレ殿下の婚姻の儀です。


ミケーレの弟カルロ第二王子にも、新しい婚約者が決まります♪

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