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39、ロミルダの活躍で王国は救われる

「久しぶりね、アタシの大切な娘よ」 


 ゆったりとした足取りで、若き日の高級娼婦ナナの姿をしたロミルダは魔女アルチーナに近付いた。


「本当にかか様なの!?」


 魔女のおもてに浮かぶのは喜びより、疑問と驚愕が入り混じった表情。


(何者かが魔法薬を使ったんじゃないかって疑っているのかしら? それともアルチーナ夫人が生まれる前の若いナナさんだから、確信が持てなくて不安なだけかしら?)


 ロミルダは娘を迎え入れるように両手を広げて、


「ええ、お前のかか様ですよ。せっかくほんのひと時、地上に降りられることになったから、私が一番美しかったときの姿になったの」


「そんな――」


 まばたきすらせず目を見開いたままで、アルチーナは言葉を失った。もう一度かか様に逢えたら――それは幼い日から彼女が願い続けていたことだった。かか様は別れの言葉もなく、彼女の前から姿を消してしまったから。


 同時にロミルダは母親役を演じながら、ふと思った。もし自分の母上が姿を現してくれたら、と。


(もし私の目の前にお母様が現れたら、なんて声をかけてくださるかしら?)


 ロミルダは自分が望むことを口にした。


「いつも空から、愛おしいお前を見ていましたよ」


「かか様ぁ……」


 アルチーナの瞳が涙で(うる)む。


「かか様、ごめんなさい! アルチーナはいまだ、かか様の願いを叶えられなくて」


 母親に叱られた小さな子供のように、アルチーナがうつむいた。


(かか様の願い――それが、この王国を乗っ取ることだって、お義母(かあ)様は信じているの?)


 ロミルダはわざと呆けた表情を作って尋ねた。


「アルチーナ。お前、アタシの願いがなんだか知っているのかい?」


「え…… 私が王女になる、こと?」


「それがお前の望みなのかい?」


「えっと――」


「それがお前の幸せなのかい?」


 ナナの姿をしたロミルダに重ねて問われ、さっきまで自信に満ちていたアルチーナの表情は、見知らぬ街を一人さまよう子供のように不安げなものに変わっていた。


「アタシの願いはただ一つ、お前が幸せになることなのよ」


 言い含めるように一言ずつ、ロミルダが伝えると、


「私の―― 幸せ……」


 呆然と立ち尽くしたまま、アルチーナは唇だけ動かして繰り返した。


 魔女が戦意を失ったことを悟った騎士団長は、張り詰めていた気が抜けたのか、地面に倒れ込んだ。


「でも! かか様は、私が王女になることを望んでいらしたんじゃぁ――」


 過去の記憶にすがるように言いつのるアルチーナに、ロミルダは目を伏せ静かに首を振った。


「お前が幸せになるには、貧しい暮らしを抜け出して、王女になるのが一番だと思ったの」


 実際にナナが何を考えていたかなんて、ロミルダには分からない。もしかしたら本当に身勝手な女性で、国王の血を引く娘を利用して豊かな暮らしを手に入れようとしただけかもしれない。


(でも、私にとって理想のお母様は――)


 ロミルダは両手を広げ、アルチーナを抱きしめた。


「いままでアタシの願いを叶えようと頑張っていてくれたの? お前は優しい子だね……」


「うぅ…… かか様……!」


 アルチーナはついに泣き出した。


「ウッウッ、子供のころの私が……、願っていた幸せは―― どんなに貧しくても、かか様と二人で暮らしていくことだったのよ!」


「悪かったねぇ、お前を一人きりにしてしまって。許しておくれ――」


 ロミルダも涙を浮かべて、アルチーナの髪を何度も撫でた。


「もう自由になっていいんだよ。お前の人生をお生き。アタシはお前が幸せだと笑ってくれさえすれば充分なんだから」


「かか様……! 本当は私、ずっとそう言って欲しかったの――。私は過去から解放されたかったのよ!」


 大粒の涙を流すアルチーナを、ロミルダは強く強く抱擁した。


「いいかい、アルチーナ。これからはどんなにささやかなものでもいいから、お前自身の喜びを見つけるんだよ」  


(そう、きっと私のお母様ならこう言ってくださる。私の中にずっと住んでいらっしゃる優しくて明るいお母様なら――)


 しかしアルチーナは駄々っ子のように首を振った。


「もう手遅れなのよ、かか様! 私はたくさん罪を犯してしまった。火あぶりになる運命なの!」


「まだそうと決まったわけではない」


 凛とした声は、宮殿の中から聞こえた。手すりに白い彫像が立つ大階段を長い足で降りてくるのは、それこそ絵画から抜け出してきたかのように完璧な美貌を持つ貴公子だった。


 ほぼ同時に、今までどこに隠れていたのか三毛猫ディライラが影のように中庭(コルテ)を横切って、彼の足元へ走り寄った。


 ナナの姿をしたロミルダの胸から涙にぬれた顔を上げて、アルチーナがその名を口にした。


「ミケーレ第一王子――」

お読みいただきありがとうございます。


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