2話
「死ね」
彼女がその言葉を発した瞬間、俺は死を覚悟した。
数秒とも、数分とも感じられる、長い感覚の後、
「ぽしゅうぅぅぅぅぅぅぅ」
という何とも情けない音が確かに聞こえた。
その直後、首の拘束が解け、俺は地面に崩れ落ちた。
「はあ!はあ!はあ!」
酸素が急速に体に駆け巡っていくように感じられる。
なんだ?何が起きたんだ?
彼女の方を見ると、彼女も倒れていた。
ひとまず距離を取り、呼吸を落ち着かせる。
彼女が何か変な動きでもすれば、一目散に逃げられるような体勢で警戒していたが、彼女は倒れた姿勢からピクリとも動くことはなかった。
首をさすって、さっきまでの感触を確かめる。
彼女は触れていなかった。
けれど確かに首を絞められた感覚はあった。
あれは一体なんだったのだろう。
しかも、彼女は俺を軽々と持ち上げて見せた。
彼女の体格からして、首根っこを掴まれたとしても、俺を持ち上げるのは無理に思う。
数分もんもんと頭を巡らせていたが、答えは出ず。
このまま彼女をほっぽって帰ることもできたが、さすがに年端もいかない彼女をこの寒空に置いていくのは憚られた。
それに、得体の知れない恐怖感はあるが…
彼女は自分のことを魔王だと言っていた。
魔王。
RPGとかでよくラスボスで出てくるやつだ。
一般人のコスプレイヤーだったら、間違いなくイタイ奴だが、彼女は違う。気がする。
彼女をもっと知りたい。
いつしかそんな気持ちが出てきていた。
とにかく、いつまでもアスファルトの上に寝かせておくわけにはいかない。
そろりそろりと彼女に近づいてみる。
彼女が動く気配はない。
もしかして死んだのか?
手を取り、手首に指を再び押し当ててみると、やはり脈はあるようだ。
口元に耳を近づけてみると、寝息が聞こえる。
「んぅ…ん。むにゃむにゃ」
「………」
よくこんな状況で寝ていられるな…。
「ちょっと失礼しますよ」
彼女の首と太ももの下に手を差し込み、持ち上げてみると予想外に軽かった。
あ、左腕にむにゅっとした感触が…。
温かい柔肌が、左腕に感触を伝える。
女の子はみんなこんなに柔らかいものなのか?
くそ、意識しないようにすると、尚更意識が集中してしまう…!
考えるな、感じろ…!
無心で夜道を歩き続けていたら、いつの間にか自宅のアパートに着いていたようだ。
願わくば、アパートの住人とすれ違うことがありませんように。




