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ドクター佐藤

7話 ドクター佐藤


「佐藤はいらん。ドクターだけでいい」

 

 診察室に入ってきた黒服の二人の男の方に椅子を回転させて言った白衣の老人は髪は多いが白髪。鼻の下の口ヒゲも真っ白。

 

 ドクターは休診日なのに白衣を着ている。

 誰が見ても博士といった老人だ。


「さっそくですが注文の品は? もう期限はとっくに過ぎてます」


 背の高い痩せた男は帽子をとり言った。

スキンヘッドだが、やたらと眉は太く黒々としているその下の目は濃い黒のサングラスで瞳は見えない。

 顔立ちからして東洋人だろう。


「期限だとぉ……。まだ試作品の段階だ。そう簡単に出来るモンじゃない。わからんのか」


「じやその試作品でいいので見せていただきたい」


「見たいなら、見るがいい。お前さんの横に」


「おおっ!」

 

 黒い男たちが入ってきたドアの横に大きな女が立っていたのに気づいた男たちは声を上げた。


「女……。大きい」

「やっぱり、おっぱいは大きい方がイイ。まあほどほどだがな」


「あ、いえ、背が大きいと。私も高い方だが、私より」


「お前さんとこが持ってき素材で造ったら、そのくらいに。けっこういい出来だろ。美人だし」


「はあ確かに美人ですが、縫い目が残ってますね」


「ああそれな。今の医術なら消せないこともないんだが。消せないんだよ。なんでかのぉ。素材の問題かもしれん。まあそんなには目立たんじゃろ」


「クリュッウ!」

「わっ、しゃべった」


「もちろんじゃ。わしがちゃんと教育しておる」


「しかし、注文は兵士だが、なぜこのような女に……」


「お前さん、昭和の生まれか。今時、兵士や戦士に男も女もないわ。むしろ女の戦士の方が好まれておる。『トゥームレイダー』『バイオハザード』最近じゃ『チョコレートファイター』とかスゴイのが」


「いちおう私、昭和ですけど、今の映画ちょい古くありません?」


「そうなのか、研究が忙しくて最近のは知らん! それは、置いといてだ、そいつをマリリンと名付けた。マリリンそいつを上げてみぃ」


 マリリンはスキンヘッドの男の襟首を掴み軽々と持ち上げた。


「後ろの太い相棒より力はあるぞ……だが、イマイチこっちの方がまだ問題がある」


 ドクターはこめかみに人指をさした。


「んじゃマリリン、わしの名を言ってみろ」


「ハカセ」


「そうじゃなく、な・ま・えじゃ」


「ハカセ……なまえ……ビスマーク・ハゲ・サトー・ジロー」


「違うぞマリリン」


「マクドナルド・サトー・フランシタイ」


「はぁ……わしは腐乱屍体か。よく考えろマリリン」


「ビスマーク・フェラ・ジロー・サトー・バルク・フランケン……」


「おしい。あんた知ってるじゃろ」


「すいません、ドクター。フルネームは……」


「ビスマルク・フォン・タロウ・佐藤・ボルグ・フランケンシュタインじゃ覚えておけ」


「長い……それではマリリンも」


「寿限無より短い」


「まあ確かに。あ、いい加減降ろして下さい」


「お、悪かったの。マリリン、おろしなさい」


 マリリンが男を床に。

 ネクタイを戻しながら男はマリリンを見上げ。


「試作品でいい。彼女いただこう」


「駄目だマリリンはやらん! 大事な研究成果だ」


「しかし、上が研究の成果を知りたがっていまして。かなりの大金をかけたプロジェクトなのはおわかりでしょう」


「駄目だって、お前さんが見たもの報告すればいいだろう」


 ドクター佐藤が頑固なのは知っている男は少し考えて。


「その……よく調べたいので、しばらく貸していただけませんマリリン」


「はあ? 貸す………」


「あ、丸井君、スグ終わるから先にクルマに。あっ駅前のスタンドでガソリン入れてきて、帰りヤバそうだから」

「はい」


 相棒が診察室を出て診療所のドアの閉まる音がしてから。


「ドクター。私、マリリンとデートしたいんです。一日お借り出来ませんか? いや半日でもイイ」

「ナニ、デートだ?」

「実は私、大女フェチでして。子供の頃のアイドルは和田アキ子で、その後大林素子に惚れまして。今じゃバレーのリーグ戦の観戦マニアに。そういう私はマリリンを一目見るなりほれてしまい。ダメですか」

「あんた、嫁さんおるじゃろ。浮気でもする気か?」

「いやいやそんな滅相もない。思い出作りに一度」

「思い出づくりとな……そうか。実はわしも大女が好きでの」


 椅子から立ったドクターの身長は160センチ、あるかないか程度だ。

 ドクターは男の耳元で話しはじめた。

 

「子供は大きくしたくてな。最初にもらったカミさんは170で二人目は175あった。そして3人目は179で、こいつはプロレスラーと浮気して逃げちまった。で、次の…」

「あ、そこまでで。ドクターはオモテになったんですね。うらやましい」

 

 男は拍手をしたあと、キョロキョロし、机の下や棚の上をさぐりだした。


「なんだ盗聴器か、そんなものとっくに始末したぞ。大丈夫だ」

「ここだけの話しですが、販売中止になった『世界の女子バレーボール選手写真集』未開封品をドクターに。デートお願いします」

「あのいかがわしい写真が多いと絶版になった……。おい、コリャ。土下座はよさんか。デートとか、そういうことは本人に聞いてみんと」


 男は頭を上げ、横でぼーっとしているマリリンを見た。


「マリリン、この男がデートしたいと言っている」

「デート……グリュッウ!」

「あの。 今、なんて?」

「いいそうだ」

「でも、町から出ない……」

「だ、そうだ。ところでさっき言った写真集ホントにくれるの?」


                  つづく





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