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死屍流転を天使達へ  作者: ときのけん
死屍流転を天使達へ
8/8

8本メ 怠惰的高速戦闘

「僕はあくまで試験官達と同じような立場だからね。君達が生前に何をしでかしたか、とか全然知らされてないんだ。でも、一次試験の為の模擬戦とか、そういうのは手伝えるよ」


 訓練場の中心。若干の孤独を感じそうなほど広い空間。柔らかい表情で話すエフツーに対して、緋悠はナイフを握ったまま。


「もぎせん……でも、実際の試験で戦うのは魔物ですよね?」


「そうだよ。でも……戦う事、殺す事に慣れるっていうのは大事だとは思わないかい?」


 沈黙が、その場を包んだ。


「あーその……気合を入れるっていうか?祝福を使いこなすっていう意味でね!」


 焦って付け足すエフツーだったが、返ってきた反応は桃香の苦笑いのみだった。


(……私は、人殺しに慣れてなんかいない)


(殺す事に慣れる、か。抵抗は無いけど……)


(……こいつ。分かってて言ってるんじゃないか?もしくは、カマをかけてみただけか)


 各々、言葉には出さず考えを脳内で完結させた。


「それじゃあ早速やってみようか。実戦経験を積むのが一番だからね。模擬戦の相手はそれぞれの担当にしよう」


 エフツーはそう言いながら手を叩く。


「よ、よろしくお願いします、カーラさん……」


「……チッ。よりにもよって一番面倒そうなのが」


 カーラは舌打ちをしながら髪の毛をいじる。桃香と目は合わせない。


「よろしく。リク……くん」


「……」


 リクに至っては、一切の反応も無い。


「お前とか、ノービス」


「そうですねぇヒユウさん!私も結構腕に自信あるんですよ~!」


 白いスーツの素手をまくって腕を回すノービスだったが、彼女の肩に手が置かれる。


「ごめん、ヒユウ君とは僕がやっていいかな」


「えぇ!?」


 エフツーは依然、にっこりと微笑む。


「というか……僕じゃないとまずそうだ」


「どういう事ですかー!?私の実力不足って事ですかぁ?学生の時は良い成績出してたんですよぉ~」


「それは知ってるけど……ちょっと例外なんだ。よく、見ておいてくれ」


 ポンポン、と再びノービスの肩を叩いたエフツーは、鋭い視線を向ける緋悠にも……同じように、微笑んだ。














「これだけ広いんだから、三組一緒にやってしまっても大丈夫。ノービスさん、開始の合図をよろしく」


「了解でーす!それでは──────」


 緋悠はポケットの中で握っていたナイフを放し、親指から小指までをナイフに変え、祝福の動作をチェックする。

 そしてまた、ポケットの中に手を入れる。


 彼の視界にはもう、戦う相手の事しか入っていなかった。


(今まで殺してきた人間に、これほどの殺気を持つ者はいなかった)


 今できる、最大限の警戒。


「試合開始ぃーっ!」


 高く、大きいノービスの声。

 戦いの火蓋がはっきりと切られた瞬間だった。


(オーフォー・エフツー。この男はただの強者、と言う認識ではいけない)


 緋悠は右手をポケットに入れたまま、ゆっくりと距離を詰め始める。


(警戒しなければいけないのはこの男の祝福。持っているはずだ、俺達のような超常の力を。桃香のような怪力ならばまだ良いが、白牙のような特殊な能力だった場合、対応が難しくなる。まずは───相手の戦闘スタイルを見極める)


 緋悠は両足を加速させる。緋悠が得意とするのは基本的に近距離戦闘である。そのため相手が遠距離での攻撃が可能な場合、反撃ができない距離にいるのは一方的に蹂躙されるきっかけになる。かといって近づきすぎてもどんな祝福か分からない以上、危険だというのは拭いきれない。


(近めの中距離で様子見と行こう)


 左手に持ったナイフを、いつでも投擲できるような持ち方に変えながら。


「焦らしてもしょうがないじゃない。じゃあ……僕から行くよ」


「……」


 全神経を、エフツーの一挙手一投足に集中させ──────緋悠は、彼の手に握られたモノを肉眼で認識した。


 その情報────『二丁の銃』を脳が受け取った瞬間、緋悠は全速力でエフツーへの距離を駆けた。


「そうなんだよ、僕は銃を使うんだ!」


 二つの銃口が緋悠に向く。が─────緋悠は既にエフツーとの距離を詰め切っていた。そして、第一手の攻撃も行っていた。ナイフの投擲だ。


「は、速すぎませんか!?」


 という声も、緋悠の脳は受け取っていない。


「バンっと」


 案の定、ナイフは音の無い銃撃によって打ち落とされる。


(……サイレンサーか)


 牽制の為に投げたナイフで得られる情報にしては大きかった。

 緋悠はナイフを逆手で持ち、エフツーの首を狙う。右手で銃口を逸らす準備を、身体を捻って射線を切りながら。


 ──────が、エフツーの右手に握られた方の銃口は、向きを変えていた。誰もいないはずの、上空へ。


「──────」


 身体中を駆け巡る『予感』。この状況で選択されるはずの無い行動。つまり────────


(エフツーの祝福が関与している)


 緋悠は膝をバネのように折り曲げ、勢いよく後退する。同時に、左手のナイフを豪速で投擲する。


 このまま行けばナイフはエフツーに刺さることになるが……そうはならなかった。

 エフツーがまた打ち落としたのか?違う。


 ナイフは、姿を消した(・・・・・)エフツーのいた場所を通り抜けて壁に刺さった。


「なっ──────」


「き、消えちゃいましたぁ!?」


 黒い軍服を着た青髪の男は、緋悠の目の前から消失した。


(─────殺気までも消えている)


 さっきまではあふれ出ていた膨大な殺気が、緋悠には全く感じ取れなかった。


(この瞬間。この状況の為に今までわざと殺気を出していたというのか?)


 緋悠のエフツーの第一印象は『殺気』でしかなかった。あれだけ強大なものを向けられていては、いざ姿が消えた時に殺気を頼ればいいという思考に埋め尽くされるのは自然だった。意図的に殺気を消していると確信するが、今それに気付いてもどうにもならない。


(……あの、不自然な向きの銃口)


 エフツーが姿を消してから緋悠の頭を狙う弾丸が発射されるまでの、約一秒。その間に、緋悠は結論にたどり着いた。


「やはり上か……っ!」


「えぇっ!気付いたのかぁ!」


 しかし、その仕組みなどは一切理解できていない。ヒントから考察しただけで、事実とは言えなかった。それに、弾丸は既に発射されていた。緋悠の動体視力を持ってしても、それを回避するのは至難の業であり、祝福による追尾システムが無いとは言い切れなかった。


 それを踏まえて、緋悠は対抗策を含めた結論にたどり着いていたのだ。


 緋悠は両手を交差させ────単純に、その銃弾を受け止めた。


「うわぁっ!ちょっとエフツーさんやりすぎですよー!!」


 驚いたノービスが彼らの間に飛び込んでくる。

 それもそうだ。この男たち、模擬戦と言いつつも当たり前のように命を狙いあっている。


「────いや、まだだよノービスさん」


「何言ってるんですか!速く治療しないと……」


「その必要は無い」


 緋悠の足元に、小さな音を立てて銃弾が落下した。


「……え?」


「傷の一つもつけられていない。強いて言えば……服に穴が空いたくらいだ」


 エフツーの銃弾を受け止めた……ナイフと化した腕を、元に戻して言った。



 祝福で変化させたナイフの耐久性も、緋悠は眠れない夜の間に検証していた。ナイフの他の武装を使っていくら折ろうとしても、砕こうとしても、削ろうとしても……刃こぼれすることは無かった。ほんの少しの金属粉でさえ、生まれなかった。


「……うん。どう考えても合格だよね。こんな短い時間でも十分理解できた」


 そう言ったエフツーは手に持っていた二丁の銃を消失させた。取り出した時も一瞬だったため、緋悠はそこまで驚かなかった。


「僕と君との模擬戦はこれでおしまい!本番で緊張しちゃうタイプでもなさそうだし、後は事故に注意してねとしか言いようがないね」


「……び、びっくりしましたよ。まさかこれほどまでなんて!」


 ノービスは勢いよく緋悠に突進し、彼の手を握る。


「ヒユウさんなら絶対!転生試験に合格できますよ!」


「……そうか」


 しかし、緋悠の頭の中はマイナス面の感情で埋め尽くされていた。

 自分を見透かすような態度を取り、その上圧倒的な実力を持つ、エフツーという男。


 そして、これほどの力が手に入ってしまう『祝福』というシステムが、ただ転生後の生活を保障するためのものとは、考えにくくなっていた。

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