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死屍流転を天使達へ  作者: ときのけん
死屍流転を天使達へ
2/8

2本メ 怠惰的人生入学式 前編

 その少年、明庭あけにわ緋悠ひゆうは自殺によって命を断った。自殺と言っても手首を切ったり首を吊ったりと言ったメジャーな方法ではなく、ナイフで首を斬るという大胆な自殺方法。自殺なのだから当たり前だが、彼は死んだ。死んだはずなのだが──────


(………どこだ、ここは)


 暗く、足を付ける地面もない…まるで宇宙空間のようなその場所に……地球にて生命としての活動を終えた命、緋悠がそこに在った。

 彼は意識が戻ると数秒の思考の停止から脱却し、すぐさま自分の状況が異常であることに気付いた。


 ───死んだ人間が、死んだと認識しているのはおかしいだろう?

 だって、死んだのだから。死んだのならば、普通は意識が途絶えるはずだ。


(────どうなっている、この状態は)


 緋悠は脳内で思考を整理する。


(身体は無い。意識だけが確かに存在している。つまり一応存在はしていると考えて良いだろう。それが今の俺の状況………まるで魂だけになったような気分だ)


 自ら命を絶った緋悠は、自分が死んだという事実に対して取り乱したりはしない。生前持っていたその冷静さ故、身体を失ったはずの彼は気付いた。存在しないはずの目で、見たのだ。


 ある景色を。


(何かが見える。白…金…分からない)


 それはどんどん明瞭になっていき、接近していき、やがて停止する。


(───身体が………)


 構築されていく。すでにある身体に入るのでは無く、彼の意識に身体が付けられていく感覚。パーツのように取り付けられていく視覚、聴覚、触覚。そして腕、脚、顔──────。


(──生きていた時の感覚……)


 徐々に生命としての姿を取り戻して行き、そして────




 完全に戻った。

 視界は良好。

 身体も動く。緋悠が死ぬ直前に来ていた長袖の上着に黒ジャージという服装まで再現されている。


「………」


 右手を握り、開き、握って開く。その動作を繰り返し、緋悠は満足げな表情で思った。


 ─────『成功』だ、と。


「ッ!」


 じっくりと生身の身体の感覚を味わっていた事に彼は後悔した。戻ったばかりの目を見開き、緋悠は周囲を見渡す。


(理解出来ない現象が起きたらまず自分と周りの状況を把握しなければ!)


 血走る眼球が射殺すかのような視線で周囲を貫く。


 (この場所は───)


 ──豪華な装飾が施されている部屋。


 (俺自身の場所は───)


 ──今は椅子に座っている。


 (俺の状態は───)


 ──拘束されていない。外傷や体調の不良なども無い。


 (俺以外の人間は───)


 ─────────右と左に緋悠と同じように座っている若い男と女。視認した瞬間緋悠はまず右隣に座っている男から分析を始める。


(顔は見たことがない。虚ろな表情をしている…意識がないのか?眠っているのか?身長と制服から見て俺と同じくらいの年齢か。目立った危険要素は見当たらない。だが……)


 普段、緋悠はこういった状況の際、無駄な思考は全て省いて行動する。そんな緋悠でさえ、


(………本当に、顔が整っているな)


 と思ってしまうほどの、イケメンだった。黒髪で、ごく普通の高校の制服を着ていて、服装自体は何の変哲もない男子高校生そのものであったが、ただ単に顔が整っていた。


 ──────────そして、左の女。


(同じく俺の知らない人間。身長は俺より少し低いが………制服を着てる事からから見てこっちの年齢も同じくらいだろう。そして危険要素もまだ見当たらない、か……)


 長く伸ばした艶のある黒髪の持ち主である少女は、思春期に踊らされている年頃の男であるのなら一瞬は目を奪われてしまうような美貌の持ち主だったが、緋悠は観察を終えるとすぐに目線をそらした。


 身体を獲得して僅か二秒にも満たないこの一瞬で両隣の人間を把握した緋悠はその目線を正面へと運んでいき────────


「──────え」


 さっきまで迅速だった思考を、凍結させた。本能的に脳が認識を避けていた存在に目を向けてしまったのだ。


「───っ!」


 およそ一秒間、正面を向いたまま固まっていた緋悠は自我を戻すとすぐに観察を始める。

 例え脳がその観察対象への理解を放棄しかけていても。


(……正面には俺達から少し距離を置いて長机と、三人分の椅子と、それと……)


 無駄な思考だったためすぐに機械的にカットされたが、自らの脳内と言う狭い領域でさえその存在の名称を言語化してしまう事に緋悠は躊躇いを覚えた。

 頭上に光る輪がある(・・・・・・・・・)ような者は人間とは言い難かったからだ。


(────三人の、『天使』がいる)


 明庭緋悠が生前に暮らしていた場所は紛れもなく地球であり、そこには天使などと言う生命は実在しないとされ、空想上の存在にすぎなかった。『確認されていないだけ』という言い方もできるが、少なくとも緋悠は天使の存在を信じていなかった。


 だが。それも含めて、今緋悠の目の前には『天使』という言葉でしか言い表せない存在がいた。


 三人の天使達はそれぞれ緋悠達三人の目の前に来るような形で座っていた。


 緋悠の前に座っている『天使』は大きな目を持ち、金髪で、ウェーブのかかった短めのポニーテールだった。ここまでなら普通の人間の少女なのだが、その上に浮遊している黄色く光る輪と実物のように動く白い翼はコスプレという可能性を考慮しても人間と呼び難いパーツだった。


(だが、真っ白のスーツとは……)


 緋悠のイメージとは違った、きっちりとしている純白のスーツが三人を包んでいた。


 右の男の目の前にいるのは、オレンジ色の髪の少年。その視線は緋悠達ではなく、手に持った本に注がれていた。

 左の女の目の前にいるのは、目が痛いほどの真っ赤なショートボブの少女。腕を組んで緋悠達の方向を睨みつけている。

 その二人も同じように光る輪と白い翼があった。


 これらの情報をまとめ、緋悠はこの状況自体の考察を始める。


(まず、この場所)


 座っている椅子まで地味に光っているほど豪華な金色と大理石のような白が基調になっている……とにかく派手な部屋だった。

 そして緋悠含め若者が三人、そして天使が三人。計六人の閉鎖空間。


(……まずいな、出口が見当たらない。来た事も見た事もないこの場所で………いや、それは当然か)


 緋悠は脳内で一人の人物を思い浮かべる。


(『父さん』の言った事が本当ならば…ここは地球じゃない。そうだ、あの天使の説明もつく……やっぱり父さんは嘘なんかついていなかったんだ)


 一瞬思考が揺さぶられかけた時────緋悠の意識は右耳へ傾いた。


「うっ……」


 右に座っていた男が目を覚ましたのだ。


「ん……あれ……?」


 目線だけ左に動かす。緋悠はその目で少女の長い黒髪が揺れるのを確認できた。

 二人の意識の覚醒に伴い、緋悠は目線を前に固定した。怪しまれるのを避けるためだ。

 その時、タイミングよく彼の前に座っていた天使が口を開いた。


「あ、皆さん起きましたねー!?」


 瞬間、緋悠の耳に甲高い声が飛び込んでくる。


「…………え?」


「や……何?ここ……どこ!?」


 両隣の二人は完全に意識が戻ったようだ。左の少女は今の状況に対して取り乱し始める。


「え……どこ…誰…!?なんで翼生えてんのアンタら!?」


(……それは俺も気になったが)


 意識が戻っていない姿だけ見れば『清楚』という言葉が似合う美少女だったが、髪をぐしゃぐしゃにして叫ぶ彼女はなんとも、人間らしかった。


 最も、気付いたらキラキラ光る部屋にいて天使みたいな恰好をした変人が三人もいるような状況で冷静さを保っていられる人間の方が少ないだろうが。


「あー落ち着いてください。大丈夫ですから大丈夫ですから!」


「え……あ、はい?」


 金髪の天使の真っ当な対応によって黒髪の少女は座り直す。


「はい。それでは────」


 ポニーテールが微かに揺れるくらいの大き目な声で、その天使は言った。


「これより、第三回転生試験を開始致します!!」


「…………試験?」


 意識して言った訳でもなく、ただ単に予想外過ぎたその単語に対して緋悠は呟く。


「試験官は私、ノービスと!」


 金髪の天使……ノービスは左方向へと人差し指と顔を向ける。


「…………」


「あ、あれ?」


 が、その視線を受けている少年は見つめ返すことも何か言う事も無く、読書に没頭していた。


「ちょ、ちょっとリク君!自己紹介!」


「あんたが今名前言っちゃってるんだからもう良いわよ」


 囁きになってない声の大きさで少年を諭そうとしていたノービスに赤髪の天使が腕を組んだまま言った。


「カーラちゃんまで………」


「はい、あたしの分の自己紹介もありがと」


「……も~!二人とも~!」


 カーラと呼ばれた天使は依然緋悠達の方向を睨み続けている。


「「………???」」


 この自己紹介の間、緋悠の両隣に座っている少女と少年は何も言えずにただ頭を混乱させることしかできなかった。


「はい、それでは次に、あなた達の名前を教えてください!ではまず私から見て一番右のあなたから!」


「………え?」


 指を刺された少女は数秒のタイムラグがありながらも、面接形式のような質問だったため、過去の経験を思い出しながら自らの名を答えた。


「え……っと、清久きよく桃香ももかです。……はい」


「ありがとうございます!可愛いですねー」


「あ、はぁ、あざす」


「では次の方!」


 ──────この瞬間、緋悠の脳は加速した。


(この質問……正直に話すべきか?わざわざ本名を使う必要はない……いや、父さんの計画通りなら恐らくここは地球じゃない。ならば俺の知らない技術が存在しているかもしれない。今俺が座っているこの椅子に嘘発見器の上位互換のようなものが無いとは言い切れない。ここは大人しく───────)


 指を刺された緋悠は臆することなく、間を開けることなく名乗った。


「明庭緋悠です」


「はい、ありがとうございます!あれ、桃香さんと同じ年齢ですよね?なんで制服着てないんですか?」


「学生だからといって常に制服を着ている訳ではないでしょう」


「確かにー!では次の方!」


 指を刺された右側の男に緋悠は視線を移す。


「……雨喰あまぐい白牙びゃくがです。よろしくお願いします」


「はい、ありがとうございます!すごいイケメンですねー!」


「……よく言われます」


「えーと……はい、皆さん名前は情報と一致してますね!」


「ちょっ……!?それ言っちゃダメでしょあんた……!」


「へ?そうだったっけ?」


 慌てて紙のようなものを隠すノービスを見て、緋悠はほっと息を吐いた。


「まぁいいや!お互いの名前も知れた事ですし、試験の説明に移っていきます!」


「ちょ、ちょっと待って!」


 ノービスの言葉を遮り、清久桃香が声を荒げた。


「い、意味分からんすぎる。いきなり変な所にいるし、そもそもそんな試験なんて受けた覚え無いのですが!」


「……俺もそう思います。なぜ試験を受けることが確定してるみたいになってるんですか?」


 緋悠を挟んだ二人は強気な姿勢で天使達に質問をしていく。


「え……でも、受けますよね?」


「いや受けないって!!」


 まるでそれが当然のように言うノービスに苛立ったのか、桃香は立ち上がった。


「てか、あんた達一体何ですか!なんで天使の格好なんてしてんの!恥ずかしくないんですか!」


「天使の格好って言うかー、天使なんですけどねー」


「……は?」


 冷たく見下す桃香。その視線を返すように睨みつけたのは……


「……じゃ、これ見れば信じてくれるかしら」


 ────────指先に火を灯すカーラだった。後ろにライターを隠しているわけでもなく、唐突に指から火を出した。カーラはその指を高く掲げてから火と言うよりは『炎』と言った方が適切なくらいの規模に燃え上がらせ……消した。

 その伝わってくる熱が炎が偽物ではない事を証明していた。


「な、な……!?」


「……幻覚でも見てる気分だ」


(…………これは少し驚いたな)


 驚愕する桃香と白牙に挟まれ、二人ほどではないが緋悠もまた驚いていた。


「これが天使だという直接の証明にはならないけど……あんたら人間とは違うって事は……理解した?」


「分かったけど……いやまだ分からない事だらけだけど、速くここから出してくれないと困る。私の可愛い弟ちゃんが待ってるのに……」


「でも……」


「でもなんだよ!!」


 桃香は今にもノービスに掴みかかりそうな距離まで接近していた。それでもまだノービスは……異常者を見るような目で桃香を見ていた。


「だって、受けないって事は魂が消えちゃうって事ですよ?」


「……え?」


 ──────魂が、消える?


『嫌な予感』が緋悠の背中をなぞった。


「あー、ノービス。多分こいつら一番大事な事を理解してないわよ」


 カーラは髪をいじりながら吐き捨てる。


「そうでしょ?あんたたちも話を進めるような質問をしなさいよ」


「だから……っ!」


「その大事な事とは何ですか?」


 カーラの方向へと意思の矛先を向けた桃香を遮った緋悠は姿勢正しく椅子に座ったまま、落ち着いたトーンで赤髪の天使を睨みながら言った。


「─────あんたらが、もう既に死んでるって事よ」


 カーラの回答は緋悠にとって拍子抜けするものだった。彼は既に自分が死んだ事を理解していたからだ。


「なんだ、そんな事──────」


 ──────だが、他の二人は……そうではなかった。


「…………私が、死んでる?」


 桃香は頭を抑えるように手で髪をぐしゃぐしゃにし、そのまま床に崩れ落ちた。


「……はは、そんな訳……冗談、でしょ……」


 口から出る言葉とは反対に、彼女の脳は意思に逆らって記憶の引き出しをを片っ端から開けていく。


 彼女が死んだ日。


「あ」


 死んだ原因。


「いや……」


 死ぬ前に最後に見た人間。


「と……き、くん…………」


 自分を殺した張本人─────。


「あ、ああぁあああああああぁあああああ!!」


 絶叫。耳を裂くような叫びが部屋中に轟いた。


「ごめんね、ごめんね、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめん……う、あぁあ……あああああああああぁああああぁぁあああああ!!」


「……はぁ」


 左で絶賛発狂中の桃香から視線をそらした緋悠は自分にしか聞こえない程度のため息をついた。


「っ……」


「ちょ、カーラちゃんどうするんですかこれ。ビビってないでなんとかしてくださいよ……」


「そ、そんな事言われたって……って、ビビッてなんかないわよ!!」


「…………(ページをめくる)」


(天使の内二人は動揺するばかりでもう一人は本に夢中。誰が収集を付けるんだ?この状況は……)


 と、もう一度、今度は少し聞こえるくらいのため息をつこうとしていた時──────彼の右に座っていた男が動いた。


「!」


 その整った顔の男、雨喰白牙は緋悠の視線を切って桃香の方へ歩み寄り、やがてしゃがみ込んで桃香と視線を合わせた。


「ちょ、えー……ビャクガさん!?危険じゃないですかー!?」


「だからと言って、このまま放っておくわけにもいかないでしょう」


 落ち着いた態度で白牙は桃香に語り掛ける。


「ほら……落ち着いて」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい───────」


「…………」


 その光景を緋悠は──────心底理解できないような眼差しで見つめていた。白牙が桃香を宥めること自体が理解できないのではなく、緋悠が不気味に思ったのは……白牙自体だった。

 喚き散らす少女を宥めているはずの少年の目は、緋悠には──────憎しみを抱いているように見えた。


「────大丈夫だから」


 そう言って白牙は桃香の顔へと手を伸ばし、頬を撫でるような動作をした。


「んぅ……」


「……収まった?」


「……んっ……え、あ、え!……っと、はい……」


 すると不思議な事に……自我を忘れ叫んでいた少女は、目の前の異性に対して頬を赤らめるいたいけな少女へと変貌……否、戻ったのだ。


「え、すごいじゃないですかビャクガさん!?イケメンパワー?ですか!?流石です!」


「……そういうのいいですから……」


 ノービスは口角を上げてはしゃぐ様に喜ぶ。


 ────────だが、緋悠の脳内は混乱に満ちていた。


(────────は?どういう事だ?今、何をした?あそこまで精神を壊していた人間が一瞬で元に戻るなんてあり得るのか?あのような芸当ができるのは父さんが作った薬くらいだが、あれを持っているのはこの世で父さん本人だけで、それはあり得ない……大体、雨喰白牙は自分が死んでいた事に対して動揺しているように見えたが……違うのか?なぜあそこまで落ち着いていられる?)


「あ、えーっと……その……ごめんっていうか……ありがとごぜーます」


「いいよ、気にしないで」


 自分の席に戻っていく白牙は一瞬だけ……緋悠へと視線を向けた。


 その事もあり、緋悠はさりげなく装備していたナイフまでもが戻っている事を確認し、白牙への警戒を強めた。


「えーそれでは!説明に戻っていきますが……なんでしたっけ?魂が消えるって話でしたっけ」


 頭を掻きながらノービスは新たに取り出した紙を見る。


「えーと、試験を受けない場合は執務室でウリエル様と対話……で、それでも受けないのなら処刑室で魂を消去って流れですねー」


「……そもそも、なぜこの試験を受けるかも転生ってやつも分からないんだ、そこを説明してほしい……です」


 緋悠はのんびりと話していくノービスに苛立ち、自ら話を進めようとした。


「……いいわ、もうノービスは。ここからはあたしが話す」


 赤髪の天使が今一度緋悠達を睨みつけた。


「『不幸判定』……あたし達天使がそう呼んでいる物がある。『世界神』様達が人間達の死後に独自に判断して、記憶を消して転生させるか、記憶と『祝福』を持たせて転生させるか。要するに神様から不幸って思われたら記憶と力を持って転生できるの。魅力的な話でしょ?」


「転生……」


(…………成功だ。間違いなく成功だ)


 今の話を聞いて、この部屋の中で少しづつ溜まっていった緋悠の中の『確信』が完全となった。


(俺は、もう一度父さんに会える─────だが、気になることもある)


 カーラが話した、『不幸判定』の事だ。


(俺は不幸な人生など送ってきてはいない。父さんがいるだけで幸せなんだ、俺は。なのに……どういうことだ?)


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 話を遮って桃香は声を荒げる。


「え、そ、それってつまり異世界に行ってチート使ってヤッホーみたいな事も出来ちゃったりする系……!?」


 さっきまで発狂していたはずの少女はまたもや立ち上がり、興奮した様子でカーラに詰め寄る。


「……ま、大抵の人間はそういうのを希望するわね」


「や、やったー!!え、すご……ちなみに地球に生まれ直すことは……?」


「できるわよ」


「やったあああああああああぁぁああ!!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねる桃香にさっきの面影は微塵も感じられない。『この子、さっきまで自分が死んだ事に気付いて叫びまくってたんですよ』と言われて信じる者が何人いるだろうか。


「……君はどう思う?」


「!?」


 突如緋悠に話しかけてきたのは右に座っている男、白牙。ナイフに手を伸ばしながら落ち着いて答え始める。


「どう、とは?」


「力を得て第二の人生を歩むのって、素敵な事じゃないか?彼女…桃香さんも喜んではいるけど、さっきの話の通り……僕達は不幸な人生を歩んできた。……よね?違ったら申し訳ないんだけど」


「…………いや、合ってる」


「……そっか」


 緋悠は表情を崩さずに平然と嘘を吐く。


「でもね、俺は……もう消えてしまってもいいかなって思ってるんだ」


「!」


「君は……明庭くんは、生きたいかい?」


 儚げな表情の白牙は少しだけ微笑むと、カーラの方に視線を移動させた。


「それで、記憶と力を持って転生するために試験が必要ってわけですね?」


「なるほどそういう事か!ならもう張り切って受けちゃうわ私!!」


「────いや、違う」


 冷たく突き刺すような視線がこちらを覗く。


「へ、違うって……?」


「合ってはいる。でも厳密には違う。普通の不幸判定を受けた人間は試験なんてなくても記憶と祝福を持って転生できる。あんた達は違う。あんた達は……『神に嫌われた』から、試験に受からないと転生すらできないのよ」


「……え?」


 空気と桃香の表情が凍り付いた。


「だってそうでしょ?あなた達は不幸判定を受けた上でそれを覆すほどの罪を生前に犯していた……ほんとあり得ない話だけど、じゃないと神様だってわざわざ嫌ったりしないわよ。間違ってるかしら、あたしは。大罪人・・・の皆さん?」


 緋悠がその視線から感じたのは、白牙が桃香に向けていたような深い『憎悪』だった。初対面の人間に対してなぜそこまでの感情を持つことができるのか、感情が必要でない(・・・・・・・・)人生を送ってきた緋悠には特に、分かる訳がなかった。


 沈黙の部屋に、ページをめくる音だけが響く。



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