表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

3.シオウの忙しい一日

シオウ視点です。

 聖女様と初めて会った時のことを、思い出す。


 ……表情のころころ変わる、太陽のように明るい女性だと思った。身分や立場を気にせず、自分に対して近い距離で接してくる人というものは、珍しかった。自分が望んだわけでもなく王都に無理やり連れて来られた日にも、聖女様は私にお礼を言っていた。……正直、不思議だった。異世界から召喚された人間というものに会ったことはなかったが、彼女を見ていると、明るく豊かな土地で育ってきたのだろうと想像できた。


 見知らぬ世界での慣れない生活は、彼女にとって決して楽なものではなかったと思う。それでも、城でも、オーク村でも、聖女様は自分のやることを見つけ出し、いつも忙しく動き回っていた。

 その姿が、周りの人間をどんどん明るく、元気にしていく。そんな様子をそばで見ているうちに、徐々に興味が湧いていった。


 仕事に対して何か感情を抱くことは今まで少なかったけれど、聖女様と共にいる時間を……私はいつしか楽しみにするようになっていた。会えない時間に、どことなく物足りなさを感じるくらいに。


「シオウ様、書類の確認をお願いします」


「……ああ。分かった」


 私が物思いにふけっていると、大量の書類が机に置かれた。

 世界が救われた日……同時に世界は一変した。魔物達に襲われたたくさんの町、魔法で成り立っていた社会の仕組み。それらが今、混乱状態にあり、国の助けを必要としている。


 ……聖女様が救ってくださったこの世界、ここで歩みを止めてはいけない。


 私はその一心で今日まで仕事を続けている。


「南の地方で、聖女様の訪問を希望しているようですが、どうしましょう?」


「……今はまだ、各地に足を運んでいただくほどの余裕がない。緊急でなければ、後日ということで返事をしておくように」


「わかりました」


「シオウ様、今年の騎士団祭りの日程についてですが……」

 

 騎士団祭り……


 ……去年の騎士団祭りの日。聖女様と一緒に露店を回ったことを思い出す。私といることを「楽しい」と言ってくれた聖女様。

 聖女様が……今日までベニキンを大切に育てていてくれたのを、知らなかった。


 ……聖女様。


 ガン!!


 危うく煩悩に支配されそうになったところで、私は机に頭を打ち付け、自我を保った。周りの人間が少し動揺している。私は何事もなかったように仕事を続けた。



 ……聖女様の部屋は明るく、温かかった。そして、日の光のような優しい、聖女様の匂いで溢れていた。すぐにでもその場から立ち去らないとだめだと思ったのに。間近にある聖女様の顔が、あまりにも美しくて……思わず――。


 ガンガン!!


 だめだ。隙あらば聖女様のことばかり考えてしまう。こんな気持ちは不毛であることは、自分自身でもよく分かっている。それでも……


 誤魔化し、騙し、蓋をしていた感情が、自分の力ではもうどうしようもないほどに暴れ出し、手が付けられなくなっているのを感じた。


『シオウ、わたし、全っ然! 気にしてないから!』


 あの時の聖女様の言葉……。


 聖女様は本心からそう言ったわけではないとわかっている。自分を気遣って、どうにかしなければと焦っている姿も……正直可愛いと感じてしまったのだけれど。


 それでも……、聖女様が王と過ごす時間を大切にしていることを知っている。アレクス様との、村での生活を心の支えにしていることを知っている。


 聖女様は、こんな私にも、優しい。


 ……けれど、決して自分一人を特別に想っているわけではない。


 何を今さら。そんなこと、最初からわかりきっていること。……別に、気落ちするようなことではない。


 私は、思い切り頭を揺さぶった。


 そもそも、特別な存在とはなんだ? 今の立場は聖女様を近くでお守りできるという意味では、最も特別なのではないか? だとしたら、それで十分、自分の気持ちは……報われる。聖女様がどこに行こうとも、行動を共にできる場にいるのだ。


 ……そう、それで。望みは叶っている……


「そうだ! それで、いい」


「……シオウ様?」


 その日、一日中思考は堂々巡りを続けた。仕事が終わるまでに、幾度となく頭を机に打ち付けることとなり、その度に周りの人間がびくびくと反応することになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ