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1.シオウの気持ち

「聖女様。1時間後にサンルードの首長様がお見えになります。面会が終わりましたら、後はまた支度をして、今夜は、各地域の貴族の方がいらっしゃっての晩さん会になります」


「わ、わかりました!」


 魔王事件から一息ついた最近。わたしは連日お祝いにやってくるお客様の対応やパーティーで、忙しくしていた。特に先日は、王都をあげての盛大な凱旋パレードという一大イベントがあり、わたし達はすっかり「世界を救った勇者」として有名になっている。


 国の復興は順調なものの、まだまだ元通りの生活とはいかなかった。それでも、みんなはこのお祭り騒ぎを楽しみに、頑張ってきた節もある。みんなが生き生きとしているのを見ていると、世界を救えて本当によかったと思う……


 自室に戻っても一息つく間もなく、またすぐに来客もあるということだったので、現在、わたしは応接室で休憩している。


 や……休む間もない……。


 この後数週間、びっしりのスケジュールを思い出し、くらくらしているところに、ドアがノックされた。


「相当、お疲れの様子ですね。お茶をお持ちしました」


 部屋に入って来たのは……珍しくシオウ! きっとわたしの様子を見て、心配してくれたんだよね。シオウはすっとわたしの前に紅茶を置くと、礼儀正しいお辞儀をし、入り口に向かった。え!? ものすごい一瞬でいなくなるのね……わたしは思わず、シオウを呼び止めた。


「ねえ……シオウもちょっとだけ一緒に座らない?」


 わたしにそんな風に声を掛けられると思っていなかったのか、一瞬無言で動きを止めたシオウに、もう一押し声を掛けた。すると、遠慮がちに斜め向かいの椅子に座ってくれた。いつもわたしがお願いすると、結局その通り動いてくれるシオウは、何だかんだものすごく優しい。


「お茶、ありがとうね。シオウも毎日忙しいでしょ? ……なかなかゆっくり話す時間もなかったね」


「私は、特には……慣れていますし」


「そうかな? ところで、わたしはもう聖女の力を無くしてしまったし、魔王を倒した『勇者』っていう括りなら、シオウも同じ立場だよね。わたしに気遣っていろいろしてくれなくても十分だよ?」


「いえ。私にとって聖女様は何があろうと聖女様です」


 まあ、シオウならそう言うか。国を救った英雄なんだから、もっとゆったり構えていてもいいんだろうけど、きっとシオウは今まで以上にいろんな仕事をこなしている。なんなら、自分達を称える祝いの会を、自分自身で準備している。


「この後の晩さん会には、シオウも出席するんだよね?」


「はい、私などが皆様と並んで出席するのもどうかと思うのですが……どうしてもと」


 断り切れないんだろうな~……。そんなシオウの思いとは裏腹に、結構若い女の子達に人気があるみたいなんだよね。この前も大勢に囲まれて営業スマイルで対応してるの見たし……。

 うん、改めて見ると、シオウって相当綺麗な顔立ちだよね。物腰も柔らかくて紳士的だし、強いし、身分的にも高いし……あ、これって完璧男子なのでは!?


「あの、聖女様?」


 シオウが首を傾げている。なんだか気恥ずかしいことを考えていたので、わたしは慌てて話を逸らした。

 

「う、うん。わたしも、シオウくらいなんでもできるなら、これからも役立てるんだけどな~って思って……」


「……?」


 わたしの言葉の真意がわからず、不思議そうにするシオウ。この際だから、まだ誰にも話していなかったけど、わたしが最近考えていたことを、まずはシオウに伝えようと思った。


「わたしね、しばらくはお城にいさせてもらおうと思うけど、ひと段落着いたら街でなにか仕事をしながら暮らすのもいいかなって思ってるんだ」


 シオウからの返答はない。そして、たっぷりの間が空く。


 ……もしかして不快にさせてしまった!?


「あ、でもシオウに護衛まで頼もうなんてずうずうしいこと考えてはいないからね! シオウはただでさえウォーレン様の仕事と聖女のお世話係の兼任を続けているんだから、少しは負担も軽くなるよね? わたしはただの一般人になって、街の仕事を探してみようかと思って……復興の手伝いでもいいし、気になる飲食店もあるし。それはそれで、ここでの暮らしと違って楽しそうだなって」


「……」


「……ん?」


 反応が……なさすぎて困る。何? またしても長い時間が過ぎ、やっとシオウが口を開いた。 


「……いつも、そうですね」


「え?」


「いつも、私の助けなどいらないと言って、聖女様は一人で行動なさいます」


「そんなつもりじゃ……!?」


「……そのように、突き放されるのは……辛い、です」


 シオウの一言は、絞り出すようだった。シオウにそこまで言わせてしまうなんて……。じわじわと罪悪感が膨らみ、押しつぶされそうになってなにも返答できない。良かれと思って言っていたのに、シオウにはそんな風に思われていたとは。


「ごめん、なさい」


「聖女様が黒竜に取り込まれた時は……私の中で世界の終わりを感じました」


「シ……オウ?」


「気付いた時には……私は城の近くに倒れていました。色を取り戻した空を見て……聖女様がきっとこの世界を救ってくださったんだと理解しても、私の心は晴れなかったのです。何も……できなかった自分の無力さを呪いました」


「何もできなかったなんて……シオウの協力がなかったら、魔王だって倒せなかったよ!?」


「どれだけ目の前の敵に傷をつけることができようと……聖女様を守るという使命を果たせないのでは、意味がありません」


 シオウがここまで自分の気持ちを話してくれるのは珍しい。そう言われてみれば、再開した後も、シオウはどこか元気がなく、どちらかといえば関りを避けられているような感じさえしていた。真面目過ぎる彼は、1人でずっと悩んでいたのかもしれない。一言一言、シオウの言葉がわたしに突き刺さる。


「……私は、これからも生涯をかけて聖女様をお守りする立場にいようと決めています。どこへ行こうとも、必ずお供します。なので、どうか離れるなどと言わないで下さい」


「うん……ありがとう、シオウ」


 しばらく、真っ直ぐな視線を向けてくるシオウから、目が離せなかった。シオウの感情は表情には出にくい。それでも、その黒い瞳は揺れ、わたしに対する気持ちが伝わってくるようだった。


 息が……詰まる。



「聖女様! お時間です」


 時が止まったようなその空間は、わたしを呼び出す声で、再び動き出した気がした。


「あっ……じゃあ、またね! シオウ」


 まだ、何か言いたそうなシオウを横目に、わたしは不自然なほど大慌てで部屋を出た。


 バタン、と大きな音がしてドアが閉まる。



 き、緊張したー!!



 シオウに、心の中までのぞかれているような、謎のドキドキがおさまらない。な、なんだろう? この気持ちは……


 もう一度声を掛けられるまで、わたしはしばらくドアにもたれたまま、動けなくなっていた。

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