6月7日 母の料理
6月も1週間が過ぎてしまった。あっという間だ。
最近はクソ暑くて、クソ暑い。外に出ていないけど本当に暑い。外に出たら十中八九干からびると思う。干からびるのを避けて家に引きこもっていると何だか鬱々とした気分になってくる。ムシムシしてウツウツなんて最悪極まりない。けれどそうなっちまったんだからしょうがない。そんなわけで私は鬱々とした気分、もっと簡潔に言えばホームシックである。
もう実家に帰りたくて仕方ない。地元はこんなに暑くなかったとかもっと水がおいしかったとかどうでもいいこと一つ一つに突っかかって「実家に帰りてぇ」と独り言を言う虚しい毎日だ。いつ一番帰りたくなるかといえば飯時。何を食べても母の料理が恋しい。
母はすごく料理上手だ。あれが食べたいといえば大体自分の想像よりおいしいものを作ってくれた。仕事で忙しくても、必ずおいしいごはんとメモを用意してくれた。「別にそこまでしなくていいのに」と何回も言ったけど「私が楽しいから」とずっと続けてくれた。本当に幸せ者だったな自分。
お菓子も得意で、小さい頃はよくスイートポテトを作ってくれた。サツマイモはあまり好きではなかったけれど、母が作るスイートポテトは大好きだった。家族みんなで奪い合いみたいにしてバクバク食べた。最後の1個をかけて毎回みんなでじゃんけんして、わいわい楽しかった。
今は母のトマトシチューが一番食べたい。鶏手羽と母特製のホワイトソースが入ったトマトシチュー。あれよりおいしいトマトシチューは世の中に存在しない、絶対。晩御飯がトマトシチューの日は家族みんなで代わるがわる台所を覗いて「あとどれくらいでできる」と母に何度も何度も聞いた。味見の時には我先にとみんな台所に行って、1人すれば十分なのに全員で味見した。結局全員とも「おいしい!」しか言わないのでする必要もないのに、母は毎回味見させてくれた。ああもう今すぐ帰って食べたい。暑いしシチューの季節じゃないけど母のシチューならいつでも何杯でも食べられる。
コロナも収まってきて帰りやすくはなってきた。けれど万が一ってのは怖いし、それ以上に私は簡単に帰ってはいけない気がする。
家族はもっと地元に近いところに進学することを望んでいた。それを押し切って都会に出てきたのは完全に自分のわがままだ。ただでさえ学校に通うのにはお金がかかるのに、都会で一人暮らしなんてしたらもっとお金がかかる。正直言って迷惑だろう。それでも最後は「頑張ってこい」と言ってくれた。「辛くなったらいつでも帰ってこい」とも言ってくれた。家を出るまで気づけなかったことが恥ずかしいけれど、本当に良い家族を持ったと思う。
そうやって送り出してもらったから「寂しくなった」とか「辛くなった」なんて身勝手な理由で帰りたくない。ちゃんと自分なりに結果を出してから会いたい。送り出して良かったと思ってもらえるようになってから会いたい。だからまだ帰らずに頑張りたい。
授業も課題も大変だし、オンラインで友達作りとか自分には無理。毎日辛くて、この前つい電話口で「帰ってお母さんの料理食べたいわぁ」と茶化して言ったら、「いつでもおいしいもの作って待ってるから帰っておいで」なんて真面目なトーンで言われて泣きそうになった。誤魔化すのが大変だった。
明日からまた平日だ。早く自分で納得して実家に帰れるように頑張ろう。母のトマトシチューを食べるために頑張ろう。できるだけ明日も良い日にしよう。よし!頑張るぞ!