7話 対決
戦うと決意した僕は、擬態を倒木から変更する。
僕の体はウネウネと黒い塊に変化しその後、貝殻へと擬態をした。
「え? 何!? ゴミ箱!? なに!?」
奥さんが戸惑っているのを無視して変化を続ける。ミップの圧縮を解き放ち、貝殻をどんどん大きくする。
ミップの半分を注ぎ込むと貝殻は、どんどん大きくなる。ゴブリンさんの背丈をこえ、洞窟の入り口の枝に届くほど大きくなった。
よし! 次は、中身に擬態だ!
僕は、貝殻の中に意識を集中する。貝殻の内側がぐぐぐと盛り上がり貝殻の外にまで出ていく。
そして、残り半分のミップをすべて使いヤドカリに擬態をし、とがった足で地面に立った。
よし! やはり思ったとおり! 体の一部が家に触れていれば、外に出ても大丈夫みたいだ。
僕は、上半身を貝殻からだし、頭とハサミ、それに8本ある脚のうち4本を外に出す。そして、残りの小さい4本の脚で貝殻を支えた。
よし! 読み取った記憶のように動ける!
片耳ゴブリンさん! 今いくよ!
僕は、大きくなった体で、部屋の扉を洞窟の壁ごと吹き飛ばし通路へと出た。
そこには、ひどい状態になっている他のゴブリンさんたちが、あちらこちらに倒れていた。
ひ、ひどい! 僕は、皆を踏まないように注意しながら、急いで奥へと向かった。
「ムンナアアアアアアアアアア!」
洞窟の奥から聞いたことない生き物の声が響く。急いで先に進むとやっと、たいまつの明かりが届く範囲に入れた。ついに、テンテンデッカーというやつの姿が見えた。
顔は、ヤドカリさんの海時代の記憶にあった、アザラシのような顔をしている。少し突き出た口に、つぶらな瞳は、鮮血のように赤い。肌はブヨブヨのツルツル。
そいつは、ゴブリンのように二足歩行で手足がある。だけど、首や腰のくびれがなく、頭が体にめり込んでいるような体形だった。肩と頭頂部が同じ高さにあり、腕は地面につくほど長くて、たくましい。足は短くて太い。まるで顔から直接、手と脚が生えているような魔物だった。
その姿が見えた時は、すでに手遅れだった。その力強い手が、羽飾りゴブリンさんの頭をにぎっている。
「リーダーを離せ! この! この!」
片耳ゴブリンさんが、テンテンデッカーの斑点模様がついた背中に、何度もヤリを突き立てている。けれども、ブヨブヨの皮でやりが刺さらないみたいで、効果があるようには見えなかった。
グチャッと、嫌な音がするとテンテンデッカーは、羽飾りゴブリンさんを投げ捨てた。そいつは、ゆっくりと片耳ゴブリンさんの方に向きを変えた。
テンテンデッカーは両腕を高く上げると、両拳を片耳ゴブリンさんに向かって振り下ろした。
「ああ、逃げのびてくれよ……」
片耳ゴブリンさんの諦めのつぶやきが聞こえた……。
振り下ろされるテンテンデッカーの拳……。
あたりは、静けさに包まれた。
しかし、その静寂は、テンテンデッカーの悲鳴で終りを迎えた。
ぎりぎり間に合った! 僕は大きなハサミでテンテンデッカーの手首を受け止めると、全力で挟んでバチン! と切り離した。
テンテンデッカーは、拳のなくなった腕を振り回しながら後ずさりを始めた。
おもらしをして、放心状態の片耳ゴブリンさんをハサミでつまみ上げ僕の貝殻の上に乗せる。
「なんだ!? なんだ!」
混乱しているゴブリンさんを無視して、僕は、覚悟を決める。目を真っ赤にしておかしくなっているテンテンデッカーと再び戦い始めた。
痛みを感じていないらしく、血がボタボタたれている腕で構わず殴りつけてくる。生物の限界をこえている……。たしかに、これはおかしい。まるで知能がなくなってしまっているようだ。
貝殻やハサミでうまく防御しているが、殴られるたびにミップが減って僕は、小さくなっていく!
このままでは、どんどん小さくなって力負けしてしまう!
テンテンデッカーは、ハサミを警戒して、組み付いてくれない。僕もハサミで殴っているが、ブヨブヨで分厚い皮が衝撃を吸収して、あまり効いてない。
「殻なしエビ! アイツおさえて! オレ脳みそに、ヤリ突き刺す!」
正気に戻ったゴブリンさんは、勇敢でした。僕は、その提案に乗り運任せで体当たり!
どうやらうまく行ったようで、テンテンデッカーを仰向けに倒した。いそいで、貝殻ごと上に乗っかった。腕をばたつかせているが、ハサミで挟み地面に押し付ける。脚は自由だが短くて僕には、届かないみたいだ。
「よくやった!」
ゴブリンさんは、ヤリを構えながら僕の貝殻の上から飛び降りた。全体重を掛けてテンテンデッカーのおでこに、ヤリを突き刺した!
ゴブリンさんの渾身のヤリは、皮膚はもちろん、頭蓋骨まで突き抜けた!
テンテンデッカーは、ビクビクと痙攣し、そのうち動かなくなった。
やった! 倒した! 僕は安心してフッと力が抜けた。
動くのはすごく体力を使うみたい。
僕はアバターが維持できなくて、黒いドロドロになり地面へと流れ出てしまった。ああっ! ミップの総量の半分が……。
「え? デカ殻なしエビしんだ? 命の恩人死んじゃった?」
すごく心配しいてるけど、もう眠くてダメ……僕は、貝殻姿のまま眠りについた。