5話 ゴブリンの洞窟
僕はゴブリンに担がれて運ばれる。ゴブリンは木々の間を器用に走り抜けて行く。しばらく走り、あたりが薄暗くなり始めたころに、僕はやっと地面に下ろされた。
周囲は森のなかにある岩の崖だ。近くには、洞窟がありその入口には、篝火台が左右にあり火が灯っている。洞窟入り口の上には、横にロープが貼られている。そのロープからは木の枝がつり下げられている。どうやら背の高い生き物が通り、その枝に触れると、カランカランと音がする仕掛けみたいだ。
そして洞窟前の平らに整地された広場には、ゴブリンたちが10匹ほど集まっていた。広場の中心に向かうように、ゴブリン達は並んでいる。
その手には、狩りで取ったと思われる動物。カゴにいっぱいの木の実。それに丸太などの素材などそれぞれの収穫物を持って集まっている。
ゴブリンたちが、おまえの収穫は何だ? とかオレのほうが多いなどと、ガヤガヤと騒いでいる。洞窟の中から頭に羽飾りをつけた、少し大きなゴブリンがでてきた。すると並んでいたゴブリンたちは、すぐに静かになった。
「今日の成果、見せろ!」
羽飾りのゴブリンが、そう言うと集まっていた者たちが動き出した。一人ずつ、前に出て手に持った獲得物を差し出していく。
「オレ! イノシシ狩った!」
「ワタシ、甘い木の実いっぱい取ってきた!」
「オレ、イタチ3匹捕まえた!」
「オレ、石のヤリの穂先7個作った!」
「ワタシ、魚いっぱい釣った!」
それぞれが一日の成果を発表していく。そしてついに、僕を担いで運んで来た片耳ゴブリンの順番が来た。
彼は、僕を担いで羽飾りゴブリンの前に行った。そして、僕を縦にし筒状の容器のように置いた。
僕を見た羽飾りゴブリンは、顔をしかめた。
「その汚い倒木、何だ?」
羽飾りゴブリンは、見るからに機嫌が悪そうになった。すると、片耳ゴブリンが慌てて説明を始める。
「これ魔力ある! たぶんモノ消える魔法のゴミ箱! 人間が使ってたの見たことある!」
「あれ違う! もっときれいで高価な魔道具! 金属でデキてる! 木のやつ知らない!」
そう言われた片耳ゴブリンは、慌てて近くの木片や動物の骨を僕の中に投げ込み始めた。
「見てて、ちゃんと消える」
そう言った後に、羽飾りゴブリンと片耳ゴブリンは、僕の穴の中を覗き込んだ。
これ……消さなかったら開放される……かな? と思っていると「消えないなら薪にするしかないか」と小声でボソリとつぶやかれた。僕は、慌てて入れられた物を吸収した。
「おお! 本当だ、魔法のゴミ箱!」
「でしょ!」
羽飾りゴブリンは、驚いていた。そして羽飾りゴブリンは、片耳ゴブリンの肩に手を置いた。
「おまえ魔道具、手に入れたすごい! 新しい職与える!」
「え!? やった! オレうれしい」
周囲にいたゴブリンは、ざわざわと騒ぎ出した。嫉妬や尊敬の声が飛び交う。
「おまえの新しい職、ゴミ集め! 洞窟の部屋全部回ってゴミ片付けろ!」
「え……」
周囲のゴブリンの尊敬と嫉妬のざわめきの声が、ピタリと止んだ。ゴミを片付けるという職に、嫉妬や尊敬は吹き飛んでしまったようだ。
――それから僕と片耳ゴブリンさんの生活が始まった。
ゴブリン達は、洞窟に住んでいて、職という役割分担と階級があるみたいです。
洞窟には中央に太い通路がある。一番奥がリーダーである羽飾りゴブリンの部屋に、なっているみたいです。太い通路には横穴がたくさんあり、扉が付けられている。その穴は得意なことを評価され、リーダーから職をもらったゴブリンたちの個室でした。他にも手先が器用な製造ゴブリンが集まって、作業する製造部屋がある。さらに、料理が得意な料理ゴブリンが、料理をする部屋なんかもある。
僕をここに連れてきた片耳ゴブリンさんは、お掃除ゴブリンとなった。朝昼晩と1日3回洞窟内を周り、各部屋のゴミを僕に入れながら歩き回る仕事をしている。
あまり尊敬されていないが、片耳ゴブリンさんも職有りとなった。だから個室と餌の分配料の増加があったみたいです。そのおかげもあって、ひと月もするとやせ細っていた体は、だんだん太くなってきました。
「汚いけど、森まわるより楽。ご飯も増えた、部屋もある」
片耳ゴブリンさんは、お昼の仕事を終えた休憩中に、独り言のようにつぶやく。どうやら今の地位にそれなりに満足しているようだ。
僕の方はというとこれが、いがいと良い結果になっている。武器を作った木の削りカスや割れてしまった土の器、生ゴミなどが、いっぱいある。だから毎日大量の物質を取り込んでいるのです。動かずにして僕は、どんどんミップを獲得し成長している。圧縮を開放すればきっと、この洞窟の通路より大きくなれると思う。
「あ! よかった。まだいた」
一匹のゴブリンが、カゴを手に持って近寄ってきた。どうやらゴミがまだ残っていたようだ。
「これ、貝の干物、作ったあとのゴミ」
近寄ってきたゴブリンは、巻き貝の殻が入ったカゴを片耳ゴブリンの前においた。
「じゃ、よろしく」
「わかった。カゴは狩猟道具部屋、置いとく」
「ありがと、やさしいし、肉も多くて、ステキ」
貝の干物作りゴブリンさんは、お礼を言って去っていった。カゴを戻しておいてあげるなんて、やけにサービスが良いなと思った。不思議に思い片耳ゴブリンさんを見たら顔を赤くしていた。どうやらあのゴブリンは女の子だったらしい。そういえば腰巻きだけじゃなく胸にも毛皮を巻いていたね。
貝の干物作りゴブリンさんが、洞窟の角を曲がり見えなくなると、カゴから僕へと貝殻を投げ入れ始めた。
「グワァ~グ~グ~ン~ゴバァ~」
肉が多いってのは、褒め言葉だったみたいだね。たくましいとかそういった意味だったのかな?
とにかく褒められて、機嫌が良くなった片耳ゴブリンさんは、鼻歌交じりで作業する。するとカゴから貝殻が、1つコロンと転がり出て、動き始めた。
「うわ! この貝動いた中身いる!」
彼は動いて逃げた貝殻をむんずと捕まえると、ひっくり返して中身を見た。
「あ、殻なしエビ入ってるやつ、これ食べられないゴミ!」
そう言ってその貝殻を僕に投げ入れた。
殻なしエビって一体何のことだろう? そう思い投げ込まれた貝殻をよく観察する。ゴブリンに触られていないのを感じたのかすぐに中身が出てきた。
貝殻から出てきたのは、黒い三角の目、短いヒゲが飛び出ていて、その下には口がある。手はボツボツがある硬そうなハサミで、4本見える足の先は鋭くとがっている。
これはオカヤドカリだ! イタチさんがたまに食べていたやつだ。
僕は久しぶりの生物にうれしくなった。いそいで記憶を読み取る。ヤドカリに意識を集中すると記憶が流れ込んでくる。
殻を背負う前の海での記憶。殻を見つけて陸に上がり森で住み始めた記憶などが読み取れた。
ヤドカリは野菜や肉などなんでも食べるようだ。一番食べていたのは、魚だったので生み出せるルアーは、魚だった。家の中に突然現れる生魚……使い難いね。
では久しぶりの、いただきます! ゴミと違い逃げられないように、触手で拘束して吸収する。
おお! なんと驚いたことに、このヤドカリは、貝殻のことを家だと認識していた。なので、僕は貝殻に擬態できるようになった。もちろんヤドカリ本体にも擬態できるようになった!
つまり! 僕はヤドカリとして動けるようになった!
やった! まさか貝殻を家と思っているとはビックリだね!
へへん! 何が動けない魔物だ! 動けるじゃないか!
魔王のやつめ! おっきくなって僕を捨てたことをいつか後悔させてやるぞ!
そして、僕とゴブリンの平和な生活は、続いていった。