1話 ポイ捨て
ここは魔王都ディーモアロの北の瘴気の濃い森……。
ここに一つの鳥の巣箱がある。
赤い三角屋根と丸い穴があいただけの簡素な鳥の巣箱だ。
この巣箱が木にくくりつけられてから100年の時がたった。
長い日々を耐えた巣箱は、自我が芽生え、ついに魔物へと進化した。
◆
うわ! なんだ! 急に考えられるようになった! これはいったい……そうか僕は魔物化したんだ。
巣箱の魔物になった僕は、新たに得た能力で周りの景色を見回す。すると景色が上下に動いている。不思議に思い下を見てみると、そこには僕がくくりつけられていた木の姿があった。
うわ! 木が歩いている。
木は巣箱が作られる前から存在していたため、既に魔物化し歩き回れるようになっていたようです。
話しかけてみようとしたが、あいにく僕には口のなどの音を発する器官はない。
僕はなすがままに、ただ揺られていた。
この木の魔物さんは夜行性のようで。昼間はひなたで眠りながら光を浴びて栄養を蓄える。夜は動き回り、土に根を刺しいろいろと吸収しているみたい。
僕も何かを取り込んで、質量を増やしたいけど、動けないのでお手上げです。
これじゃ魔物になっても、巣箱のときと何も変わらないじゃないか……。
どうにかできないかと、いろいろ考えてみると、僕の魔物としての性質がわかってくる。
それは……。
-=<僕の能力>=-
家に擬態ができる。
擬態をした家の中に生物に擬態をしたアバターを出せる。
自分の中に獲物を誘い込むためのルアーを生み出せる。(例:食べ物、貴金属、道具など興味を引くもの)
体内に入った生物の記憶を読みとれる。
記憶を読み取ると[擬態できる家]、[使えるアバター]、[ルアー]、[知識]、[スキル]を学習できる。
体内に入った物質を吸収することで[ミップ](MIP=Magic Ingredients Point=マジック・イングリーディアンツ・ポイント=魔法素材値)を獲得し、成長する。
すべての行動はミップを使う。ダメージを受けたり激しい動きをするとミップが減ってしまう。
-=<====>=-
ということだった。
試しに僕の記憶にあった鳥さんの知識から。ヒナがおいしそうに食べていた芋虫さんを出してみたけど、何も起こらなかった。
それはあたりまえだよね、なにせ僕がくっついているのは、木の魔物さんです。鳥さんが近寄ってくるはずがなかった。
何も吸収できずに数日過ごすと、ついに変化が現れた。
あたりの景色が急に変わる。いつの間にか僕は周りが石でできた場所に移動していた。鳥さんの記憶によると、洞窟に似ている。だけどそれよりも、もっと平でつるつるしている。それに同じ形の石がいっぱい並んで壁になっているから、洞窟ではないみたいだね。
あたりを見回すと、布を体に巻いた魔物が立っていた。そして、その魔物は、木の魔物に魔王という人がどれだけすごくて偉いのかを説明している。
しばらくすると説明が終わったみたい。
話をまとめると、強い魔力を持った木の魔物さんに、魔王が会いたいみたいです。魔王は人間という生き物と戦っているようです。その戦いに参加してもらうために、木の魔物さんは、召喚とか言うのをされたそうです。
木の魔物さんは、布を体に巻き付けた魔物に、奥のほうへ案内され、進んでいった。
「ふむ、新たに召喚されたのは、このトレントか? 確かに生まれたてではあるが、かなりの力を持っているな」
目の前にいる、頭に角が生えた色白の偉そうな人が魔王なのかな? それに木の魔物はトレントっていう種族なんだね。
「む? なんだ? もうひとつ、魔物の反応があるぞ?」
魔王は立ち上がると、空を飛び、僕を見つけた。
「なんだ? 鳥の巣箱の人食い屋敷だと? こんな非力で小さく、自力で動けぬ魔物などいらぬわ!」
僕は人食い屋敷っていう種族なんだと知り、納得してた。すると、魔王は僕をガシッとつかみ、トレントから引きはがした。
「ランダムゲート!」
魔王さんがそう話すと、空中に黒い穴が現れた。
なにがなんだか分からないまま、僕はその穴へポイッと投げ込まれた。
気がつくと、僕はみしらぬ森のなかにいた。
三角屋根を地面につけ、斜めの逆さまになっていた。
あれれ!?
もしかして……僕は……。
捨てられちゃったの!?