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ログ024 初依頼

イスカは、愛想の良い笑いを浮かべながらも、やや慎重な姿勢を崩さない。

「ほう。わざわざ人を選んで声を掛けてもらえるということは、通常の依頼よりは実入りが良いと考えていいのか?」


「そうですね。ある程度人を見て選考しなければならないのですが、お断りする条件が明確なわけではないので、掲示板には載せにくいのです。」


「ぜひ、お話を聞かせてください。」

食いついたのは、イオの方だった。


(ま、イオとしては、早々に前借を清算したいだろうな。)

イスカにも、探索者となるための資金を出したことでイオを縛るつもりはなかった。


窓口の脇には、いくつか小さな打ち合わせ用の小部屋が作られている。

その一つに、イオとイスカは案内された。


この案件の担当者だというやってきた職員は、クレハと名乗り、早速以来の説明に入っていった。

「斡旋したい依頼というのは、探索者の皆さんによって集められた魔素の、集計や管理なのです。」


「ほ、ほう……。」

イスカは、やや戸惑った様子で反応している。


「魔素の集計や管理、ですか。具体的には、何をするんです?」

イオは、やる気に満ちた目つきで、クレハに問いかけた。


クレハの説明によると、探索者が魔道具に貯めた魔素を集めてくるので、それをギルドに設置されている大型の容器に移したり、計量して報酬を算定する作業があるのだという。


魔道具によって中の魔素の容量や圧が異なるので、受け入れる際にちょっとした計算をする必要があり、また、容器に移す作業も魔素を漏らすと後始末が大変なので、雑な性格の者にはやらせられない。

窓口での書類の扱いを見て、器用で丁寧な仕事をしそうな人間がいれば、声を掛けているのだった。


「ふーん。」

(確かに、イオに向いた仕事ではある。安全で報酬も悪くない。

ただ、物語になるような冒険とは、言えんな。それに……)


微妙な反応を示すイスカに対して、イオは積極的だった。


「イスカ様。この依頼を受けて、生活資金を貯めつつ、まずは初歩の精霊術を身に付けるというのはどうでしょう。」


「確かに、精霊術の訓練をしてからの方が、外での依頼を受けられる幅が広がるかもしれん。それに、探索のための装備まで私が用立ててしまうのは、イオの気が済まないのだろう?」


こくこくと頷くイオの表情を見て、イスカも了解した。

「分かった。その依頼を受けさせてもらおう。」


クレハに、一日にどのくらい作業に就けばよいかなどを訊ね、訓練に当てる時間や多少は他の依頼を受ける日にちを取れることも確認した。


(魔素の扱いを慎重にせねば、勇者だとバレてしまう。

とはいえ、この依頼を受けておけば、魔素の集まり具合も分かる。任務との兼ね合いでも、ちょうど良いか。)

イスカも、乗り気になっていた。


魔素の収集依頼は今日から出ているが、探索者達が集めた魔素を納品し始めるのは、早くて明日の午後になるという。

ヒトツリアの周辺で魔物に遭遇するのは稀なことであるし、魔素が溜まるような場所も無い。馬や馬車で移動するならば、目的地までの往路だけで半日から一日はかかる。


明日の午前に作業の段取りが説明されることまで聞いて二人が解放された時には、すっかり日は沈み、街灯のオレンジを帯びた光が通りを照らしていた。


「今日は、屋台で食べて帰るか。」

イスカが提案する。

屋台と聞いただけで、イオのお腹が大きな音を立てる。


くっくっく。

イスカが笑いをかみ殺しているのに反論しながら、イオの目は、通りの左右に立ち並ぶ屋台の間で、物色を続けていた。


「あれがいいな。」

イスカは、自分の好物の中から、腹ペコの少年が小躍りしそうな料理を見つけて指差す。


ゴロゴロとぶつ切りにされた骨付きのメレネ牛の肉を、苦オレンジのマーマレードで煮込んでから、縞胡椒を効かせて炙ったものだ。


外側はスパイシーでカリっと、内側は柔らかく甘みがありつつ、ほろ苦さのせいでいくらでも次を食べたくなるのだ。


葉っぱに包んで渡されたそれを、イオは骨までしゃぶるようにして平らげていた。






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