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ログ022 探索者

イオが拠点の部屋に戻ると、イスカが仏頂面でベッドの上に胡坐あぐらをかいて座っていた。


(あれ、なんだかご機嫌斜めですか?)


「いま帰りました。」


「ああ。……ちょっと聞きたいんだが。」


「なんでしょう。」


「イオ、この辺りでは、誰でも挨拶代わりにハグをするのか?」


「うーん、どうなんでしょう。僕は渋熊の皮をかぶっていたので、あまり人に近づかないようにしてましたから。

ああ、今日はやたらハグされました。きっと、毛皮をかぶってなかったからでしょうね。

そうすると、僕も知り合いに会った時には、ハグした方がいいんですかね。」


「……いや、やめておいた方が……」


「そう思うと、師匠も一緒に暮らしていたのに時々ハグしてくれました。

イスカ様も、ハグしますか? 今日からよろしくお願いしますってことで。」


イオは、両手を広げてイスカに近づいていく。


「いや! いい! しなくていい!」

イスカは、両手を突き出して拒否の姿勢を取った。

その顔は下に向いている。


「そうなんですか。」

イオは首を傾げて腕を下ろした。


(こいつめ! こいつめ……!)


「まだ日没までしばらくある。探索者ギルドにも、行ってしまおう。」


「あ、はい。」


イスカは、部屋の外に出ると、合鍵をイオに渡す。

二人は、ギルドに向かって歩き出した。


「あの部屋にある本は貴重なものですよね。イスカ様は、知り合ったばかりの僕にこんな鍵を渡してしまっていいんですか?」


「本は確かに珍しいけれど、買う人間が少ないから簡単にはお金にできない。

それに、写本は一冊ごとに特徴があるから、誰が作ったものかもすぐに分かって、経路を手繰れる。

本当に大事な本は、頑丈な魔道具の箱に納めてあるから、心配はしていない。」


「信用していただけるのは、ありがたいことですけどね。」

イオは、うつむいて微笑んでいた。


「あー、あれだ。イオは、あの本を見て、いものだと分かっていたしな。

本をたっとび、薬術を学ぼうなどという人間に、悪賢い奴などめったにおらんよ。」


「でも、カミノさんのこと、なんだか警戒してませんでした?」


「あいつか! あいつは危険だ。間違いない。薬術師の風上にも置けんとはあいつのことだ。」


「そ、そうですか。でも、薬術に使える素材はあの人のところに持って行くつもりなので。」


「ふん。せいぜい安く買いたたかれないように、気を付けろ。」


「はい。そこは、今までよりもっと色々なことを教えてもらうことになってますから。」


「……習った内容は、私にも詳しく報告するように。」


「あ、イスカ様も、薬術を学びたくなりましたか?」


「私の身体には、薬は効かん。」


イスカは、何か見えないものを追い払うかのように、手を振っていた。

二人の前方に、石造りの大きな建物が見えてくる。


「さて、あの建物が探索者ギルドだな。入る前に言っておくが、私が勇者だということは口外するな。」


「何か不都合があるんですか?」


「そうだな……。」


イスカは、周囲を見回してから軽く探知を発動し、二人の会話を聞く者がいないのを確認する。


「勇者と探索者の関係を知っているか。」


「いいえ。勇者は魔王や魔物と戦う方々、探索者は獣を狩ったり素材を集めたりする仕事と思っていましたが。」


「それはそれで間違いではない。

ただ、勇者が探索者をすることが無いではないし、探索者が魔物と戦うこともある。

だが、探索者の最大の任務は、魔素集めへの協力にある。」


「魔素を?」


「そうだ。魔物を狩れば魔素は集められるが、勇者が戦うと、消費する魔素が獲得する魔素を上回ってしまうこともある。

自力で魔力を回復できる生身の探索者が魔物を狩れれば、魔素集めとしては効率がいい。

というより、大規模に魔素を集めようと思ったら、ほとんどは探索者頼みになる。」


「そうなんですか。でも、それと先ほどのイスカ様のお話と、どう関係が?」


勇者の編成(パーティー)が壊滅して蘇生をするとなると、大量に魔素の調達が必要となる。するとその間、探索者は魔物の討伐ばかりに駆り出されることになる。

普段は自由に活動している探索者が、この時ばかりは命令に従って走り回ることになるのだ。気位の高い高位の探索者には、面白くないだろうよ。」


「はあ。」


「そして、私は回収者で、先ほどまで任務中だった。あとは、分かるな……?」



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