2話:依頼主とはいかなる人物か??
依頼を受けた場合、僕たちは喫茶店で依頼主に会うことになっている。
いつも指定する喫茶店は野菜喫茶という名前だった。
そこの野菜コーヒーが僕のお気に入りだ。
依頼主は五十代くらいの女性だった。
長い髪にはつやがあり、とてもきれいだったけれど、つりあがった目はややきつく、我の強い印象があった。
僕は緊張した。
「はじめまして。買わせない屋の恩田です」
僕が言うと、女性はドキリとした様子であたりを見まわした。
これは彼女に限ったことではなくて、
「買わせない屋」の名前を出されると、依頼主はヒヤヒヤしてしまうものらしい。
「佐藤洋子です」
と彼女は名乗り、つづけて言った。
「娘がお金を使いすぎて困ってるんです」
「娘さんの名前と年齢を教えてください」
「佐藤小百合、26歳です」
彼女のいない23歳の僕はヘンテコなスイッチがパチリと入った。
「本当に買わせない屋って、人にものを買わせないようにしてくれるんですか」
「100%の保証はできません。万が一、お金を使わせてしまった場合はそれ相応の対応をさせていただきます」
「……わかりました」
僕は野菜コーヒーを口に含んだ。
「娘さんがお金を使いすぎている原因は何だと思いますか」
「たぶん、彼氏に貢いでるんだと思います」
うらやましい、と強く思った。
「それに……」
「それに?」
「夫がリストラされたんです。だから、小百合にお金を渡せなくなってきて」
「娘さんの職業は?」
「いちおうフリーターです」
「わかりました。まずは娘さんに会わせてください。ところで、いつからいつまで買わせないようにすればいいですか」
これが重要なポイントだ。
「1日だけでけっこうです。
それで本当に買わなければ、もう少し期間を長くしようと。そういうことってできますよね」
「もちろんです」
娘さんと会う日にちは明日の夕方と決まった。
会うと言っても、ターゲットと直接関わりあうわけではない。
ファーストコンタクトの場合は、遠くから観察するにとどめておかなければならない。
かくして、僕は娘の小百合さんを見ることとなった。