第19章 死闘9
死んだらどうなってしまうんだろう。ふと思った。寂しくて暗い場所が待っているんだろうか。何もない場所なんだろうか。独りぼっちで漂う何かにでもなってしまうんだろうか。永遠のような時間をたった独りで……。それに、死んでしまったらカミーともう2度と会えなくなる。僕の大切な友達。一緒に旅してきたことも、僕が死んだらただの過去になってしまうんだろうか。
体が震えていた。怖いのだ。死ぬことが怖い。迷っている場合じゃないのは分かってる。助けなくちゃいけないことも痛いほど分かってる。でも死にたくない。僕は、カミーと一緒にいたい。でも僕の姉、レインにも死んでほしくない。皆生きてて欲しい。こんなこと僕は望んでいなかったのに、ただ単純にカミーと一緒にいられたらそれで良かったのに。
そんな僕の迷いをよそに、レインの体に剣の切っ先が向いた。
力を使えば僕は死ぬ。
力を使わなければレインが死ぬ。
そうして迷った僕にレインが気づいた。僕の迷いを知ってか知らずか、文字を教えてくれた時と同じように優しくにっこりと微笑むと、かすかに口元が動いた。
生きて
急に音と言うものがこの世界からなくなってしまったみたいに何も聞こえなくなった。
切っ先がレインの胸に触れたかと思うと、剣はそのまま体に吸い込まれるようにレインの体を貫いた。それを見ていたクランが何かを叫んだらしかった。
レインの胸ポケットから、緑にも青にも見える綺麗な石が落ち、地面に当たってコーンと音を響かせて転がった。愛の羅剛神はレインを放り投げ、今度はカミーに向かって走る。気がついた時にはカミーの目の前で剣を振り上げている。
音が僕を現実に引き戻す。感情がこみ上げる前に僕は反射的に叫んでいた。
「やめろぉぉぉぉぉ!」
これほど胸が痛いのはいつ以来だろう。殴られることより遥かに痛かった。何倍も何倍も痛かった。壊れてしまうんじゃないかって思うほどに痛くて苦しくて辛かった。どうして一緒にいることがこんなに難しいんだろう。どうしてうまくいってくれないんだろう。そんな現実が嫌になった。もうこれ以上誰も傷ついて欲しくなかった。だから叫んだ。でもそれは、僕が力を使ったことを意味していた。




