第13章 ウンディーネの湖2
ウンディーネのいるという湖は本当に美しかった。波のない水面は頭上に浮かぶ雲をそのまま映し出し、まるで大きな鏡を見ているかのようだった。湖自体は大体半径50メートルほどで、遠くに樹が立ち並んでいるのが見える。どれくらい深いのか興味が湧いて、そっと足を水の中につけてみる。泳いだことがないから浅いと助かるのだが。
蹄を水につけると、まるで地面に足をつけたように固かった。体重をかけてみても沈むどころか立っていられるのだ。触れた所から静かに波紋が広がっていく。
「見て! イアン!」
僕が湖の上に立つのをイアンが驚いた表情で見ている。動く度に連続して波紋が伝っていき、湖の端で跳ね返ってまた水面を撫でていく。
「すごいね! こんな不思議な場所があるんだ!」
恐る恐る足で水面に触れてみたイアンもその固さを実感するなり湖の上を歩いて歓声をあげた。歩いていると、まるで空を歩いているのではと錯覚してしまいそうになる。
「ここに水の精霊ウンディーネがいるのかな」
それがイアンの母親だったりするんだろうか。もしそうだとしたら何年ぶりの再会だろう。
幻属と人間の間に生まれた子供なんて幻想的で思わず頬が緩む。
そんな僕らに、よく通る女性の声がかけられた。
「誰? そこにいるのは」
僕らは顔を見合わせてから声の主を見た。何もいなかったはずの湖の中央に、透き通るように青く、長い髪の女性が立っていた。肌は白く、腕は細い。一見すると若い人間の女性である。滑らかな髪と白いワンピースが風に吹かれて微かに揺れた。
「まさか、水の精霊ウンディーネ?」
僕が尋ねると、ウンディーネは微笑んだ。
「そうよ。もしかして私に会いに来てくれたの?」
手をさりげなく口元に当てて、ふふっと笑う姿は、美しくて見ていてうっとりしてしまうほどだった。人間の村にウンディーネがいたら、きっと今頃周りは目がハートになった男達で埋め尽くされていただろう。チラリと見てみると、イアンもまたどこか幸せそうだった。それもそうだ。本当の母親なら、イアンは初めて家族に会うのだ。
「そうなんだ。少し話が聞きたくて」
イアンが照れて何も言えないようなので僕が尋ねると、ウンディーネは輝くような笑顔を向けてこちらに歩いてきた。




