第12章 避けられないもの4
体調が良くなった僕は自由を手にすることができると知って興奮気味だった。カミーが先に出口に向かったから僕もついて行こうとした時、おばあちゃんに呼び止められた。
「イアン、お待ち。お前にはまだ続きがあるんだよ」
僕の声が聞こえているわけじゃない。ただ僕が言いたいことがわかるだけ。それでも嬉しかった僕は、笑顔でおばあちゃんの方を振り向いた。先ほどまでの笑顔は既に消え失せ、ただ無表情のまま僕を指さした。
「自由にはなれる。だが、自由を手にしたその時お前は死ぬ」
一瞬意味がわからなかった。おばあちゃんの言葉は分かっても意味を上手く理解できない。その言葉はひどく冷たくて棘があり、指差しているのは明らかに僕だ。
「そ、そんな……な、何かの間違いだよ」
僕が引きつった顔で笑ったのを無視しておばあちゃんは続ける。
「お前のその力は未来を見るだけの私と違って水という物質そのものを操る。人の体には負担が大きすぎるんだ。その力を使えば使うほど弱っていくのをお前が1番よくわかってるはずだよ。今回はこれで済んだけどね」
そう言われて、心臓が大きく跳ねるのが分かった。
そう言われて、急に頭の中で何かがパチンと繋がったような気がした。最初力を使った時体がだるかった。次に使ったときはカミーには言わなかったが、なんだか息苦しくて体が痛くなった。力を使ったあとに体調を崩し、徐々にひどくなっていたのは気候が変わっていくせいだと思って特に気にしていなかったが、これは気候のせいじゃない。そうか。そうだ。僕は力を使うたびに体にダメージが蓄積されていたんだ。
ふと、今日の事を思い出してみる。途中から息が苦しく、体中を激痛が走っていた。カミーの声が聞こえなくて、体が揺れていることからカミーが走って逃げてくれているのがかろうじて分かった。落ちるわけにはいかないと何とか頑張ったけれど、それは僕が力を使いすぎたから。それに、自由を手にした時僕は死ぬ? そう思うと急に怖くなった。
「僕は死ぬの? 本当に、死ぬの? 死なないよね。冗談だよね」
突然押し寄せる死の恐怖に、とにかく否定して欲しくて僕はすがるように尋ねた。
「死ぬ。絶対にね」
おばあちゃんは淡々と言った。悲しむわけでも、同情するわけでも、ましてや慰める気など微塵もない。ただ事実を言っただけ。
その言葉を聞くと急に目の前が真っ暗になりそうになった。体が震え始め、今までのことがフラッシュバックしてくる。カミーと一緒に村を飛び出したこと、カミーと一緒にペガサスから逃げたこと、ベリトルとカミーと一緒に軍人を相手に逃げたこと。僕の傍にはいつでもカミーがいた。僕が死んだらカミーはどうなるの? 僕はどこへ行くの? 不安が押し寄せて、どうしたらいいかわからなくてただ涙が溢れてくる。
「僕はどうやったら助かるの? 助かる方法あるんでしょ? だって、僕はカミーと一緒に生きるんだ。一緒にいるって約束したんだ。それに、カミーは寂しがり屋なんだよ。独りぼっちじゃダメなんだよ。僕が、僕が傍にいなきゃ……」
声が震えてた。まだ、死にたくない。まだ、僕は生きていたい。だからきっとそんな運命を回避する方法を求めていたんだ。それでもおばあちゃんは口調を変えることなく言う。
「無理だよ。お前が助かることはできない」
言葉が喉で支えて出なかった。本当に僕は死ぬの? カミーを残して?
自分の両手を見て、閉じて、開いてを繰り返した。動く。僕の体は動く。まだ大丈夫。何度もそう言い聞かせる。
「だから後悔しないように生きるんだよ。それが見えたから私はお前達を助けたんだ」
出口から、イアンまだ? と僕を急かす明るい声が聞こえてくる。行かなきゃ。カミーが来ちゃう。カミーが知ったらどうなるんだろう。僕は何も言わずおばあちゃんに背を向けた。
「せめてもう少し楽しい夢を」
後ろからかけられたその言葉が僕の心に深々と突き刺さった。




