第9章 レインの真実
イアンはそれから10分もしないうちに目を覚ました。何が起こったのか分かっていなかったみたいだが、僕がニールとの戦いや水の柱のことを説明すると、少しずつ状況を理解し始めた。水の柱は正直驚いたけれどイアンがイアンであることに変わりはない。とにかく無事で良かったと僕が言っても、イアンは浮かない顔のままだった。
「僕は、羅剛神を復活させちゃった。カミーにも怪我をさせちゃったし、怒りで自分すら見失ってた。どうして僕はこんなにバカなんだろう」
それは自身の無力さと情けなさを責めているようでもあった。イアンの中には、もっと自分が賢ければあの状況を打破できる案を出すことができたという気持ちが強いのだろう。
「イアンだけのせいじゃない。僕がニールに捕まっちゃったからだよ。イアンは僕を守ってくれたんじゃないか。羅剛神を復活させないために何があっても黙秘することもできたのに、イアンは僕を守る選択をしてくれたから今ここにいるんだよ。過去をなかったことにはできないけど、未来を変えることなら僕らにもできる。変えられるのはその時代に生きる命だけだってベリトルが言ってたでしょ。だから麒麟の元へ行こう。二度も羅剛神を封印できた麒麟ならもう一度羅剛神を止められるはずだよ」
僕はイアンに強く言った。ここまできたら麒麟に頼みに行くしかない。麒麟が持つ絶対的な力に頼るしか羅剛神を止める術はない。
「ありがとうカミー。心が楽になったよ」
自責の念に苛まれて辛そうなイアンだけど、僕の言葉にいくらか表情が明るくなった。
「僕がイアンにいつもしてもらってることをしただけだよ。イアンには程遠いけどね」
落ち込んだ時はいつだってイアンが僕を支えてくれるから、今度は僕が力になりたい。
「行こうイアン。僕らの事も、羅剛神の事も、何とかできるのは麒麟だけだよ」
羅剛神の強さは異常だった。必死で刀を振っても一振りが簡単に弾かれてしまう。羅剛神の持つ剣そのものが重いというのにまるで木の枝でも持つように振り回し、時間を稼いでも疲労することは無く長期戦は不利。かといって短期戦に持ち込もうとしても簡単にケリのつく相手ではなかった。レイン達は羅剛神を討伐する目的で戦闘を開始したものの、これ以上の戦闘は無駄な犠牲が増えると考え撤退した。負傷者も多く、部隊の半分はレインの独断で強制送還することとなった。残る人数はレインらを含めて十名。羅剛神に対抗するにはあまりにも無謀な状態だった。
レインは部下がいない場所へ移動すると、倒木に腰掛けて頭を悩ませた。
「イアンを見失い、ニールは失踪、そして羅剛神が復活、か。最悪だな」
1人考えを巡らせているレインの元に一つの足音が近づく。それに気がついてレインが顔を上げると、そこにはレインを真っすぐに見るクランが立っていた。レインはすぐに立ちあがると、鬼の形相で詰め寄ってクランの胸倉をつかんだ。
「よくも私の邪魔をしてくれたな! お前のせいでイアンを殺し損ねたぞ!」
今にも抜刀し、切り捨ててもおかしくない殺気にもクランが動じる気配はない。
「なぜ私の邪魔をしたのか説明しろ! あの状況ならお前にも分かるだろう! ニールに羅剛神の居場所まで案内したのはイアンだ。持っていた剣は宝剣ベリトルで間違い無かった。あの時イアンを殺していれば羅剛神も復活することは無かった! 何をしたか分かってるのか!」
怒りをぶつけていたレインがふとクランの目を見ると、その目は悲しげに伏せられていた。
「あのときイアンを殺させていたら、罪の意識と喪失感にあなたが潰れてしまうと思った」
レインは乱暴にクランを離すが怒りはまだ収まらず、拳を握りしめる。
「そんな理由で私を止めただと? 私はそんなことで潰れたりしない。私はできたんだぞ」
「お前は自分の姿を見てないからそんなことが言えるんだ!」
唇を噛み、拳を握りしめてクランが悲痛な声を発し、レインは目線を戻した。
「イアンを殺そうとしたお前がどんな顔をしていたと思う? 刀を振れば振るほどお前は苦しそうで、辛そうで、自分の心を殺しながら戦って、もう見ていられなかった」
クランは1度目を閉じ、深呼吸してからレインの目を真っすぐ見た。
「俺達は新人時代からずっと一緒に戦ってきた仲間じゃないか。イアンが文字の読み書きを習得したって嬉しそうに俺に報告してきたことも、イアンが同じ空を見ている気がするって幸せそうに空を眺めていた時も、俺はずっと見てきた。何年も大切に可愛がってきたイアンをその手で殺したら、今度こそお前が壊れてしまうんじゃないか心配なんだ……」




