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第25章 再出発

 北の果てから故郷までの道のりを、レインは無言で歩いていた。そんなレインに、部下達は弱音一つ吐かずについていく。歩いている間、イアンを殺したのは自分だと、自責の念が絶えずレインを襲い、何度も涙が目に溜まることがあった。その度、クランはさりげなく休憩を提案し、レインはその度に列を離れて一人泣いていた。何度苦しみに潰されそうになろうが部下の前ではいつも通りの毅然とした態度で指揮を執り、時として部下を鼓舞しながら故郷へと歩みを進めていたレイン達一行は、ついに故郷の国に帰還した。


 レイン達の帰還はすぐさま軍全体に伝わり、帰還するや否やレインは報告のために呼び出された。報告とはもちろんイアンの連行という任務についてだ。レインの報告はあまりにも簡単だった。




イアンは逃亡中に死亡しました。




羅剛神の事は言わず、ただイアンの死を伝えるだけ。その一言がレインの胸をえぐるような痛みをもたらそうが関係ない。レインの目の前で報告を聞く上官にとって必要なのはイアンが死んだのかどうかだけなのだ。イアンの死に若干不満げだったラシャルブレイヴだが、報告に嘘は無いというニールの言葉によって報告内容を信じ、後に報告書を出せと命じたのみ。レインの葛藤や苦痛などはどうでもいい付属品だった。


 上官の部屋を後にしたレインは自分の事務室に戻った。事務机と椅子が5メートル四方の部屋中央に置かれ、内壁にはズラリと分厚い本が並ぶだけの質素な部屋。レインは部屋に入ると、力なく椅子に腰かけた。執拗な追跡のせいでイアンは力を使わざるを得なくなり結果死なせてしまったという事実ばかりがレインにのしかかる。


 そんなレインの元へ訪ねてきたのは、途中で帰還した者とニールも含めたレインの仲間達だった。彼らはなんとか部屋に入りきると廊下に人がいないか確認してから扉を閉めた。


「どうした? こんなところに全員入っては狭いだろうに」


レインが力なく笑うと、クランが声を発した。


「レイン大佐」


クランの顔は真剣そのもので、皆一様にレインを見ている。


「軍を辞めてください」


レインは眉間にしわを寄せた。仲間の前でそんな話をするのかとでも言いたげな顔だったがクランは引き下がることはなく仲間全員が見ている中で堂々と続けた。


「これは俺の意見じゃない。ここにいる全員の意見だ」


レインはいつの間にか周りを囲んでいた仲間を見回した。その誰もが偽りなどないという真っ直ぐな眼差しでレインを見ており、その瞳にはどこか優しさも混じっていた。


「レイン大佐はもうこの組織から離れるべきです」


「そうです。軍は結局腐ってますから」


部下の一人がそう言うと、皆が笑いながら頷いた。


「軍は馬鹿なやつばかりです」


そんな仲間達に対し、レインは笑うことなく厳しい口調で訊き返す。


「お前達はどうするつもりだ? 一緒に辞めるとでも言うのか? こんな場所にお前達を残して私1人が逃げろと?」


断ろうとするレインに部下は言った。


「自分達は軍に残ります。そして、レイン大佐がいつでも戻ってこれるような、素晴らしい軍を自分達で作ろうと決めました」


他の仲間もまた頷いているが、レインは顔をしかめたままだ。


「そんな理想が通じるような場所ではないぞ。変に歯向かえばお前達の家族を殺せと命じる場所だ。そんな場所に部下を残していけるわけがないだろう」


実際レインは父親をその手で殺したのだ。家族を救うために父親を殺し、それによる昇級で異例の地位を獲得したのだ。鬼という称号と一緒に。


「確かに最初は苦しいかもしれません。それでも自分達で決めたのです。ここで名を上げて理想の軍を作ろうと。レイン大佐はその先陣をきってくださった。自分達はその道を突き進むのみです」


「自分達は大佐に何度も助けられました。今度は自分達が大佐を助けたいのです」


あまりにも真っ直ぐな目にレインは一瞬返事が遅れた。


「お前達、本気、なのか?」

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