表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/18

 シダーナの母、ミ・アニ・ドーラはシダーナが2歳の時、その弟を出産する際に命を失った。弟は一命をとりとめ、エイペスらはドーラの男性形ドュレイをその赤子に名付ける旨を命じた。シダーナが母の不在の理由をきちんと理解するのには、父が口を閉ざしていたこともあり、弟の出生後さらに8年の歳月を必要とした。

 昔から神官の妻は短命が多かった。入聖(アウダ)の資格を持たず森に棲むことの宿命的な帰結だと言う老人もおり、他方嫁入り前の暮らしと森での暮らしの違いに身体が弱るのだろう、という実際的な見解も見られた。ヒディア島にはいくつかの家系があり、どの家系も比較的強い結びつきを持つ家系を3、4持っていた。結婚の際には、神官に限らず、その3、4の家系のうち、最も時間的に近い嫁、つまり結婚しようとしている若者の母を出した家系以外の家系の女性と結婚することになっていた。あまりかけ離れた家の娘を望まない限り、若者の結婚意志は尊重されるものだったが、どうしても収まりの付かない時は、やはり神官がエイペスに伺いを立て、当事者たちを納得させることになった。

 シダーナの代では、アニの家系と親しいムヤイ(比較的遠洋へ向かう漁師の家の1つ)の家系に、リースナーヤという娘がいた。元は神話の中の王ファーリスの1人娘で、1000人の踊り子を擁する大宮殿の中でも随一の美しさと踊りの技能を持っていたと伝わる少女の名だが、ムヤイ家ではしばしば用いられる名であるため、ガ・アニ・マーレイシュの父などは、幼い頃干してあった魚に悪戯して怒られた肝っ玉母ちゃんのイメージを持っていた。ただ、シダーナの代のミ・ムヤイ・リースナーヤは、伝説通りというほどでもないが、ふと名の起源を思い起こしてしまうような美しさを持っていた。肌はクウィラの実を思わせる、薄めの艶やかな茶色で、手足はよくよく手入れされた若いヒディア陽木のようにすらりと伸びていた。黒曜石を削り入れたような深い色の瞳、小ぶりの鼻や口は、ころころと表情を変えてもなお一定の気品を彼女にまとわせていた。嫁入り前の少女なので髪は短く首の半ばあたりで無造作に切られていたが、それはなんら魅力を損なわせなかった。シダーナが彼女を初めて見たのは12の頃だった。恋の気持ちなど目覚めるべくもない年頃だったが、一目見て、きっと彼女を妻とする男は幸せな生涯を送るだろうと確信した。そうした後に、彼女の家系は4代前に神官へ嫁入りしたきりであることを知り、胸を高鳴らせたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ