Ⅰ
これはジュレル・ラ・エイペスの保護者、ガ・アニ・シダーナの物語である。彼はヒディア島の神官、ガ・アニ・マーレイシュの長男として生まれた。神話上の英雄から取られたこのシダーナという名は島での通例通り、父マーレイシュとエイペスたちとの話し合いによって決まり、臍の緒を失って二度目の朝日の下、ユーテル川の清めの水と共に彼に与えられた。
彼自身の話を始める前にまず、この英雄シダーナの物語から始めなければならないだろう。ガ・アニ・シダーナの生まれるはるか以前、世界の木と土と水が、泥水からようやく分離し始め、無数の天体(島の言葉に従えば、針穴)が太陽を昼へと追放した頃、ヒディアの南東は、蛮勇で知られるタリメという名の王が治めていた。彼は日暮れ時に従者を連れ、好んで散歩に出かけた。ある日王は道で、盛んに吠えたてる犬に出会った。犬が招き寄せる先では、若者がワニに襲われ、今まさに右腕を食いちぎられようとしていた。
王が弓をつがえ、ワニに放つと、ワニの眉間に的中した。驚いたワニは体をのけ反らせ、その拍子に若者の肩から額の右側にかけて深い噛み傷が出来た。王は直ちにその若者の手当てをさせたが、最後にできたその右側の傷が悪化し、若者は生死の縁を彷徨った。そこで王は若者のもとに自分を導いた犬を殺し、その血を飲ませたところ、辛うじて若者の命はこちら側へつなぎ留められた。目を覚ました若者は、その犬のように、命を懸けて王に仕えることを誓った。ただ、顔の傷はあまりに醜く膿み、皮膚を壊したために、彼は右目を失明し、また顔に面をつけて生きることとなった。この男がシダーナである。
その後、シダーナは、北の人々を飢えさせている大岩の巨人と戦うことになった。植物を枯らすこの怪物に、片目のシダーナは怯むことなく刃を振るった。右足ばかりを傷つけられた巨人は、体勢を崩し、現在のレイトン湾の辺りの、切り立った崖から転落し、その岩の1つになった。