三題噺 壱 無理矢理感の拭えないイケメン
三題噺
缶コーヒー、羊、イケメン
これが今日のお題ですか……本当関連ないですよねこれ。まぁ知的で聡明で英明で利口な私にかかれば筋の通ったストーリーに仕上げるなんで朝飯前ですがね!
既にその発言が知的でもなんでもないですって?なら見せてごらんいれましょう。私の書き上げるストーリーを!では。コホンッ。
むかしむかしあるところに、二足歩行のそれはそれはたいそうイケメンな羊がおりました。
おしまい。
手近な本で叩かないでください。嘘です。すいません。もうちょっと捻らせていただきます。
むかすむかすあるところに、にぞくほこうのなまらめんこいスィープがいますた。
おすまい。
は?こういうことじゃないって?じゃあどうしろって言うんですか!!ああん!?
いえ、あ、別にそんな逆らうとかでは。はい。はい。すいません。不肖私、僭越ながら精進させていただきます。コホンッ
とあるふれあい牧場でのお話。
そのふれあい牧場では様々な動物たちと触れ合うことが可能です。犬、猫、ウサギはもちろんのこと、キリン、ゾウ、ライオン、トラ、それにピグミーマーモセットとそれはそれは幅広い動物たちと触れ合うことが可能です。
そんな数多くの動物たちと触れ合えるこの牧場ですが、その中でも連日人だかりの出来ている場所がありました。
羊さんゾーンです。
別に月一回目の前で捌かれるラム肉が食べられるからとかそんな夢のない理由ではありません。
一応それも人気のひとつではありますが、ここにはそれ以上に人を集めるだけの理由がありました。
羊です。羊がいるのです。
ん?羊と触れ合う広場だから当たり前だって?ちっちっち。甘いですよ。羊といってもただの羊じゃないんです。
なんと、かの三大美女でさえ膝を折るであろうというレベルで美しい羊がそこにはいるのです!
……なんというか、テレビのセールストークみたいな言い方になってますね。
まぁそれはさておき、そんな美女羊はそれはそれはもう老若男女問わず人を集めました。
彼、彼女らはその羊を見た瞬間に数々の賛美の言葉を並べます。
「美しい」「麗しい」「品がある」「育ちが良さそう」「動作のひとつひとつが洗練されている」「清潔感がある」「人間じゃないのあれ?」「二足歩行だしな」「でも着ぐるみであの獣感は出せないだろう」etc……etc……
部長??どうしました?雲行きが怪しくなってきたですって?
大丈夫ですよ。ここから怒涛の巻き返しがありますから。ええ。信用してくれて結構です。ノアの箱舟に乗ったつもりでいてください!
では邪魔が入りましたが話を戻します。
しかし人間たちが彼女をもてはやす中、その渦中の羊はというと
(ら、らめぇぇぇえ!できちゃう!できちゃうからぁ!!)
毎晩のように雄羊たちによって、その美しい身体を弄られ……てはおらず
今日も今日とて彼女の人気のひとつであるその羊らしからぬ二足歩行で、閉園後の牧場を歩いて回っておりました。
「今日は何にしようかな……」
自動販売機の前で彼女はため息つきました。そう。実は彼女二足歩行だけではなく人語も操れるのです。
もちろんこのことを知る者は彼女の他にはいません。
おもわず人語を話してしまったところを誰かに見られていないかと、周りを見回しますが幸い誰にも見られていなかったようです。
ほっと安心の吐息を漏らすと、彼女はそのヒズメで缶コーヒー微糖を押しました。ブラックはこの前買ったのですが、微糖とはまるで異なる味に慣れず自分にはまだ早いと諦めました。
そんなまだブラックを飲めない彼女にはひとつ悩みがありました。
最近、どうも人間たちからの視線がおかしいのです。最初はかわいいともてはやされ、それこそ羊たちが幼子を見るような暖かい視線を人間たちもしていましたが、最近その視線が徐々にいやらしい視線に変化してきているのです。
彼女はいつものお気に入りのベンチに座って、自身のヒズメで器用に缶コーヒーを空けました。
そこはふれあい牧場の入り口とは反対側に位置する場所でした。ベンチから見渡す先には崖下にある大海原が広がっています。
寄せては返す波の音が耳に心地よく、夜の冷ややかな風が心を自然と落ち着かせてくれます。
人にしても羊にしても、多くの視線に晒されるというのはストレスになるもので、そうやすやすと慣れるものでもありませんでした。
しかも最近は普段から晒されていた視線とは種類が違う視線があることで余計に心に負荷がかかっているのが分かります。
彼女は今年で4歳。人間でいうところの25歳前後になりました。
人間たちもそれを嗅ぎ取っているのでしょうか。人語が分かる彼女は最近人間たちが自分を見てこんなお話をしているのを耳にしました。
「ブ、ブヒィ!あ、あの羊かわうぃうぃんだなぁ!!ぼ、ぼくちんのお嫁さんにして毎晩のブヒヒヒヒヒ!」
「コポォwwまことにその通りでござるな豚山殿wwwその時も拙者も呼んでくだされwwヌカコポゥwww」
彼女は最初どちらも彼女と同じ人語の分かる違う生物かと思いましたが、どう見ても姿は少し腹が出た人間と、チェックのシャツをジーパンにインしリュックを背負っている人間でした。羊からみても、どちらもお世辞にもイケメンとは言えない顔です。
そんな2人の言葉を聞いた彼女は背筋に寒気を感じずにはいられませんでした。
(やっぱり気のせいじゃなかったんだ!人間たちは私をいやらしい目で見てる!)
曖昧なものが確信に変わった瞬間でした。少し前から人間たちの目が雄羊が私を見る視線と同じになっていた気がはしていたのですが、まさか本当にその通りだったとは……
再び彼女の口からため息が漏れました。
(やっていける気がしない)
このふれあい広場の1羊として、これ以上彼女は働いていく自信がありませんでした。
確かにここにいれば食料にも暑さにも寒さにも困ることはありません。しかし、それを差し引いてもここで働いていくことに彼女は限界を感じていました。
誰か私をここから連れ出して。無闇に声を出せない彼女は心の中で夜空に燦然と輝く月にそう叫びました。
以前人間がこんなことを言っていた気がします。月にはウサギがいると。
そんなことを思い出してしまい、羊がウサギにお願いをするなんてなんだかおかしなことのように思えて、彼女は少し笑ってしまいます。
側からみれば寂しげに笑う彼女の姿は、カゴの中に囚われてしまった哀れな少女に見えたことでしょう。
そうして彼女はしばらく月を見つめていましたが、スッと視線を逸らすとベンチから立ち上がりました。
そして目の前の海と、こちら側を隔てる柵に手をかけて目一杯彼女は息を吸いました。
「メェェェェェェェェェェェエ!!!!!」
天に向かって己の決意を示すように、精一杯叫びました。せめてこの姿らしく人語ではなく、羊の言葉で。
肺が空っぽになるほど叫んだ後、その叫びを聞きつけた人間がこちらに近づいてくる気配がしました。
彼女はそれに気づいていましたが、柵に手をかけたまま動こうとしませんでした。
人間の持つ懐中電灯が彼女を照らします。
一方叫び声を聞き、駆けつけた人間は光の先に映る彼女をしばらく呆然と見ていました。
まだ、彼女は動きません。
しばらくして、もう一人の人間が姿を現しました。そのことで最初の一人も少気を取り戻したのか、じわりじわりと彼女に近づいてきます。
それでも彼女は動きませんでした。
10m、9m、8mと人間たちは徐々に距離を縮めてきます。そしてその距離が5mに迫ろうとした時です。そこで初めて彼女は動きを見せました。
柵の向こうにその身を投げ出したのです。
それに気づいた人間の片方が一気にその速度を上げ、彼女の腕を掴もうとしますが既に遅く、柵の下を覗いた時には彼女は手の届かぬ距離にありました。
人間が呆然と見つめる先で落下中の彼女は、静かに目を閉じます。
死ぬかもしれない。なんていう不安は彼女の中にはありませんでした。
あるのはこの先にあるであろう希望に満ち溢れた期待。
これからのことを思うと、いままで感じたことのない温もりが彼女の心を満たしました。
(やっと……自由になれる……)
こうして、温かな気持ちに包まれた彼女の身体は、冷たい、冷たい海のなかに消えていきました。
おしまい。
どうですかパイセン!!上手く書けたと思いません!?
パイセン……?パイセン……?どうしたんですか黙り込んで。私の天才的な文章に心動かされちゃいました?
え?メェ子はどうなったのかって?メェ子って誰ですか?あぁヒロインのことですか。勝手に命名しないでくださいよ……
というかそんなん言っちゃったら面白くないじゃないですか。また気が向いたら続き書いてあげますから。
いや、別に上から目線とかじゃなくてですね……というか次はパイセンが書いた話が読みたいんですけど!いっつも私が書いてばっかじゃないですか。
え?お前がその続きを書いてくれたらだって?はぁ……分かりましたよ……後でちゃんと書いときますからパイセンも書いてくださいね?
じゃあ今日はこれぐらいにして私は下校することにします。パイセンはいつも通りもうちょっと残っていくんですよね?
はい。では、お疲れ様でした。