それぞれの取り分(4/4)
後日、飛行船に関する続報が新聞に掲載された。
残念な結果であった。人間たちからすれば。
既に他人事であった。口座に報酬が振り込まれたゼンからすれば。
記事によると、試験飛行中に飛行船が爆発事故を起こし、乗組員全員が死亡したという。乗員には市長もいたとのこと。故障した動力部が出火し、飛行用の気体に引火したのが原因であると警察の見解が記されていた。
モノクロの写真に写っているのは見覚えのあるだだっ広い飛行場。隅っこには豪華な市長邸。中央には燃え尽きて原形をとどめていない飛行船の残骸が打ち捨てられていた。
記事の最後に、付近の山岳を巣にしていた竜が去ったためロープウェイ建造計画が再開した旨も書かれてあった。
人間かぶれしたおしゃべりな竜と、それに仕える人間がいたのをゼンは思い出す。
彼らが夕陽の彼方に飛び去って以降、その消息はとんと知れない。
竜の主人と人間の執事だなんて、元気にしているならばいつか噂となってここまで届くだろう。その程度に思っているうちに、彼らのことなど積み重なる日々の記憶にすっかり埋没してしまっていた。
飛竜と青年は今日、ひとときの感傷を手土産に忘却の彼方より再来した。
「ゼン! ゼンってば!」
ディアに背後から肩をつかまれて揺すられる。
どうせいつものように「退屈だからいっしょに遊ぶぞ」とせがまれるのがオチだとゼンは無視していると、次は首に腕を絡ませて抱きつかれ「なーなー、聞いてるのか」と背中に体重を乗せられる。それでも無視し続けていると、とうとう新聞をひったくられてしまった。
振り返ると、彼女は蒼い水晶の瞳をきらきらと輝かせていた。
「隣の港町にでっかい豪華客船が泊まってるらしいぞ。見にいこう」
子供みたいに興奮する微笑ましい半竜の少女。
ゼンは「仕方ないですね」と屈んで、靴紐を結びなおすフリをした。
〈『それぞれの取り分』終わり〉