綾瀬 -肆-
血の奔流を感じた。
自分を残して途絶えたはずの一族が、いる。
近い。
特定するまでにいたるほど近くは無いが、この血の滾りは間違いなく同族のものだ。
「あれは、我らの歪みが生み出したもの。私の血も疼いておる。そしてそ奴も我らに過剰に反応したようだ。」
その言葉と同時にあの青白い刀が襲い掛かる。
「ふん…深綾か。」
繰り出された刀を爪で軽く払う。
「帰れ。今の我では貴様を滅ぼしてしまうかもしれぬ。」
深綾が姿を露にしてもそれを見ることもなく朝峰は言う。
「何だと…?」
美しい顔は朝峰の言葉に怒り、歪む。歪んでなお、それは別種の美しさをもつ。
「侮辱をするかぁぁっ!」
美しい姿が恐ろしささえ纏って際立つ。
月光にそのしなやかな体の輪郭が浮かび上がって、もはや、美しいと言う言葉では表現できない。
「違えるな…貴様などいつでも殺せる。」
跳躍した深綾を見上げて呟く。
「あさみねぇぇぇっ!!」
赤い瞳がまるで光りを放つように軌跡を描いて迫る。
「今宵は貴様などに構っている暇は無い…」
目の前、そこにあったはずの朝峰の姿は雲隠れしたように突然消えた。
「逃げるか!?」
朝峰が元居た場所へと着地すると、もはや気配すら感じられぬ朝峰に向かって叫ぶ。
「貴様がそう思うならそれで構わぬ。」
声だけが風に運ばれるように響く。
やがて、其の声も、気配も全くなくなった。
「くっ…おのれ…おのれぇぇぇっ!」
怒りに任せて刀を振るう。
それは大地を、大気を揺るがすほどの力を持って地を裂いた。
「はぁっ…はぁっ…くっ…」
其の惨状を見るでもなく、深綾は刀にもたれかかるように座り込んでしまった。
「綾芽…私は…私はっ!」
穏やかに闇を包み込むような月。
それは傷ついた巫女――深綾をも優しく包み込んでいった。
この続きは明々後日予定です。