綾瀬 -参-
あまりに生々しい感触。
自分の周りが赤く染まっていく。
目の前では少女がこちらを怯えた目で見ている。
――どこか覚えのある顔だ。
頭の隅で何かが引っかかっている。
気のせいだろう。
そう思う事にした。そうでなければ折角の空腹を満たすチャンスがなくなってしまう。
目の前の少女の腕をつかむと、それはいとも簡単に砕けて、自分の視界を赤くする。
手についた赤いものをなめ取ると、それは甘美な潤いをもたらして、体が喜びに打ち震える。
腕を砕かれた少女が絶叫をあげる。
しかし、無声映画のようにその声は届いてこない。
逃げようとする少女の腕を、今度は砕かないようにし力を加減してつかむ。
何事か少女は叫んで逃げようとするが、それもままならない。
思わず力を入れてしまうと、また砕けてしまう。
無残にも砕かれてしまった両の手を改めて確認した少女は涙と鼻水、唾液をだらしなく飛び散らせて叫ぶ。
尻餅をついてなお逃げようと思っても、腰が抜けてしまって後ずさりする事しかできない。
部屋が赤い。赤く染まっていく。
腹部めがけて爪を伸ばすと、それが刺さってグチュリと音がする。
その次に赤いものがそこから噴出して自分の体すら赤く染め上げていく。
なんともいえない高揚が襲ってくるのがわかる。
――心地良い。
そう、言葉では言い表せない快感と歓喜に震える。
「たす…ケ……イ…ス………」
ほとんど呟くような、力の無い声。
それを最後に少女は動かなくなった。
「……………」
動かなくなった少女を見下ろす。何かが引っかかっている。
気のせいだ。自分はこの少女の事など知らぬ。
これは餌でしかない。――そうだ。これは餌だ。
そして、その少女へと手を伸ばした。
続きは土曜日の予定です。