master igen<<マスター再び>>
――master igen――
ユキトの空間で制限の解除方法を学んでいたヴィットだが、ユキトの空間に何者かが侵入した。
水辺でくつろいでいた、ユキトが唸り声をあげて立ち上がる。
…この気配はおそらく、
(ヴィットよ、主は感じたか?)
「…ん…?…何かきた?…」
(そうだ。そして、)
「…殺気…気持ち悪い…」
(主、勝てるか?)
「…やってみる…」
ユキトの魔力がこもったナイフを装備する。
水辺で侵入者を発見する。
影鬼…
2メートル弱の真っ黒な鬼、実体部と影の部分が見分けがつかない黒。
そして何より、特殊な能力を持つ。
影鬼の攻撃は体で避けても、影に接触するとダメージを負ってしまう。
…単純に攻撃を避けるだけじゃダメ…
この空間での戦いでなければ、単身での戦闘は避けている所だ。
ーーー先制…攻撃を…仕掛ける…
「…ユキト…行くよ…」
ヴィットは影鬼の頭上に大きな魔方陣を展開、雨のように氷のナイフを降らせる
<<Iskniv regn(氷ナイフの雨)>>
(…直撃……していない…どこへ…)
彼女は気配を探る。
気配は見つからない、背後から風を斬る音。回避のため、大きく飛び退く。
「…っ…いつの間に…」
攻撃のされた方向を凝視するが、目の前には何もいない。
(…あいつはどこに…?…)
過信ではなく自分がこうも簡単に標敵を見失うのは、違和感がある。
認識能力に低下?擬態能力?
再度ある攻撃に備えて感覚を研ぎ澄ます。周囲には何もいない。
少し遠くにユキトを感じる。
やはり、影鬼の気配を感じることはできない。
再度風切り音がする。音のする方向を注意しダメージを覚悟し防御する。
腕の伸びている部分を凝視する。
驚愕の事実。自分の影から腕が伸びている。影鬼。聞いている話では、影に対する攻撃を可能としている魔獣だった。広まっていない情報として影と同化し、そこからの攻撃も可能らしい。
どうやら影から攻撃する際には影に対しての攻撃は行ってこない。
…まだ攻撃を行ってこないだけか?なんにせよ油断はできない。
自分の影に気を使う。さっきはこの影から攻撃が飛んできた。
おそらくその前もこの影から攻撃を。
と自身の影に気を使っていると後ろから音がする。
(…なんで…!?…)
木の影からはい出た影鬼の姿があった。
…考えが足りなかった。陰から陰に移動することが出来るようだ。彼女は少し考え、行動に移る。
巨大な魔方陣を足元に展開。魔方陣の明かりで陰をかき消す。隠れ蓑にしていた陰が光でかき消される。結果陰鬼の姿が炙り出される。
魔方陣に魔力を注ぐと更に光は強くなる。
ヴィットはナイフを構え陰鬼との最短距離を走り出す。
一気に距離を縮めると、首を狙い的確に攻撃を仕掛ける。
陰鬼はナイフを素手で捌くが、捌く度、手の温度が奪われていく。
実体を見つけ出した後は、彼女の一方的な責めだった。
陰鬼の腕は凍りつき、動きが追いつかなくなった時、ナイフが、陰鬼の首をそぎ落とす。首からは陰のように黒い血が噴出し、彼女はそれを避けるように距離をとる。
「…ユキト…終わったよ…」
(どうやら、もう1人、来ているようだな。)
「…もう1人…?…でも…気配なんて…」
「やぁヴィット。元気かい??ユッキーも元気そうだね。」
「…マスター…?…なんでここに…?…」
(お前の実験体か?)
「そ…私が実験に使っていたサンプルが逃げ出してさ?ちょっと追ってたんだよね♪さっきイロードの坊やに依頼してきたんだけどね。無駄足になっちゃったかな?」
「…陰鬼…の討伐…?…」
「そう♪もしくは捕獲ね。結構珍しい個体だったから、手元に置いておきたかったんだけど。観察できたからいいや♪」
「…珍しい…?…」
「そう!陰から陰に渡る能力」
(ああ、さっき使っていたな。珍しいとは思ったが…)
「私の前じゃ使ってくれなくてさ?困ってたんだよ。ヴィットちゃんに対して使ってくれて助かった♪報酬は部屋に送っておくから。追加分もね♪」
マスターがなんでこの空間に来たか、陰鬼もどうやって侵入したか等色々な謎はあるが、理解できなさそうだから聞くのもやめた。
「…マスターと…ユキトは…知り合いなの…?…」
(以前契約を交わした事がある。この魔女が興味を無くしたと一方的に破棄してきたがな?)
「破棄したのは謝ったでしょ?氷の魔法がよくわからなかったから研究対象にしただけでさ?見返りもあったでしょ?」
(まぁな…制限解除の方法は此奴が編み出したのだ。)
新たな疑問が生まれる。
「…見返りが…それなら…ユキトに…必要だったの…?…」
「ヴィットちゃんはユッキーの本当の姿は見れた?」
「…まだ…ユキトが…全力になる前に…凍っちゃって…」
「そう。ユッキーも訳あって力が制限されてるんだ。君と同じでね?まぁ…完全に解放しなくてもすごいんだけど…」
「…そうなんだ…」
(我の場合、封印だな。忌々しい。術者は行方不明になっておるし、彼奴さえ死ねば封印も解けよう。)
ゲルンの言っていた『あの子は君と同じだから』の意味がようやくわかった。
(…なんで…ルンは…わかったんだろう…)
そんな疑問も生まれだが…
「そうそう、イロード坊やには伝えておいてね♪他にも何個か依頼してるから、時間があったらやっておいてね♪またねユッキー、ヴィットちゃん。」
マスターはそう言っていなくなった。




