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えれメンタルノイズ 〜目覚めし僕らのココロのサケび〜  作者: たかし
2 純白の竜 〜7がつ20にち〜
3/12

1-2 過ぎ行く時間

「…ち…! い…ろ…!」


なんだよ、うるさいな。

人が気持ちよく寝てるのに。


「…ちろー!いちろー!起きぃや!

あんたいつまで寝とるねん。

もう下校時間やのに」


あぁ、この声はしずかだ。

相変わらず名前に似合わず

ボリュームがアホみたいに大きい。

「なぁトム君、こいついつから寝とったん?」

「5時間目の途中からかな?

僕が「寝たら?」って言ったら

本当にすぐに寝たよ。びっくりした」

なんだ、武藤も残ってたのか。

何がびっくりした、だよ。

見た目が金髪で青目の

典型的な外国人なのに、

日本語ペラペラなお前のほうが

俺にはびっくりだよ。


「ん、じゃあ天風さん、トム君。

氷上君が起きたら

職員室まで連れてきてください、ん」

「分かりました」

武藤と天風の声が合わさった。

そして、木下先生が

スタスタと教室から出て行く音がした。


しばらくの沈黙が続いた。


嫌な予感がする。

こういう俺のどうでもいい予感は

わりと当たることが多かった。


「痛ってぇっ!!!」


バシィッという音が頭に

雷鳴のごとく響いた。

やっぱり予想通りだった。


「何すんねんしずか!」

「何すんねんちゃうやろ!

あんたどんなけ寝たら気がすむねん!」

「そんなに寝てないやろ!」

「軽く1時間は寝とるわ、アホ!」


そう言われて周りを見渡すと、

残っている生徒は、俺と、

このやたらうるさいしずかと、

ケンカから逃げようとしてる武藤の

3人だけになっていた。


「みんな下校したんだな」


俺は帰ろうとする武藤に

わざと話しかけた。


「当たり前だろ。終わりの会から

何分経ってると思ってるんだよ」

武藤は顔だけこちらに向けた。

「あと氷上、

職員室に呼び出しくらってるから、

早く行ったほうがいいぞ」

教室から半身乗り出している彼の言葉は

俺を心配しているようには聞こえなかった。


「武藤、何で起こしてくれんかったん? 」

「そりゃ、あの調子で

しょうもない質問をされまくったら、

こっちの身が持たないよ」

聞き逃しそうだったけど、

さりげなく俺の質問を

しょうもない扱いされたことに気づいた。

「あと僕の名前トムな。

何で武藤って呼ぶんだよ、

前から思ってたけど」

「あれだ、トムトムトムって言い続けたら、

途中からムトームトー、ってなるじゃん? 」

「ならんと思うけど」

「いや、なるんだよなぁ。

これが日本流のジャパニーズ文化。

ジャパニーズオブニッポン文化、みたいな」

「わけがわからん」


彼はそう言い放つと、

軽いため息をついたあと、

そそくさと教室をでていった。


「ちょ、待てよ!」


走って武藤を追いかけようとしたが、

後ろから肩をぐっとつかまれた。


「あんたそれより職員室から

呼び出し食らっとる()われたやんか」

武藤の言葉が、

今度は天風から発せられた。

「早よ行きぃや。ウチも早よ帰りたいねん」


しずかは、半ば強引に腕を引っ張り

職員室まで連れて行った。


幼稚園の時からいっつもこうだ。

俺が何かやろうとすると

彼女は何かと俺を引っ張ろうとした。

休み時間の時も、

給食のときだって

俺に関わろうとしてきた。


今日のパンイチドッジボールでもそうだ。

武藤を除く、俺たち男子一同は、

彼女から逃げるようにして

大会を開催したのだ。

彼女の追撃から避けるため、

わざわざ男子便所に

籠城しなければならないとは

思いもしなかった。


今となっては、あんな遊び、

止めておいたらよかったと

ちょっと後悔してるけど。


「ほら、職員室着いたで。早よしぃや」

「あー、もう分かっとるって」

3階の教室から引かれるがまま、

走って1階まで駆け下りたため、

息が途切れ途切れになる。


「ウチここで待っとるさかい」

「待たんでもええってええって。

今やと武藤に追いつけるやろ。

先帰っといて。遅なりそうやし」

俺がそう言ったとき、

しずかの眉間がわずかながらに寄った。

「待つぅ言うとるやろ、早よ入れや!」

ハリセンを取り出しかねない

彼女から逃げるように、

俺は職員室へ入っていった。

そんなに怒るなら、なんで俺を待つんだよ。


気がつけば、俺をあざけ笑うように

照らしつけていた太陽は、

廊下にしんみりと細い

赤いラインを描くほどになっていた。





「ん、で氷上君は

夜寝れてないとか

そういうのがあるのかな? ん」

「あー、そんなこと無いっすよ」

「ん、じゃあ、

なんで授業中寝ちゃうのかな?」

「なんででしょうねぇ」


長い。ものすごく長い。

その質問5分前にもしましたよ、先生。

俺は繰り返す質問に

テキトーに返答しながら、

いろんなことをして遊んでいた。

立つ場所によって

先生のバーコードとなった髪の毛と

天井の蛍光灯がぴったり合わさる位置が

あるのでは無いかと、

地味に動いて探してみたり、

鼻息で髪の毛を

吹き飛ばせないかと試してみたり。


そんなことをするうちに

窓から漏れる太陽の弱くなったラインが、

さらに力を失ってきた。

そのライン上に、

先生がいないのがとても残念だ。


「そんなにジロジロ見て、

先生の頭に、何か付いてますか? ん」

「あ、いや、何もないです」


あぁ、しずかの奴、

もう帰ったかなぁ、


今日の晩御飯何かなぁ。


そういや今日は

ハゲえもん放送の日だなぁ。


あぁ、そうだ。

さっきの授業中にみた、

林の中の白い物体は

結局なんだったんだろうなぁ。


俺の意識はもう、職員室の中には無かった。



「ん、じゃあ、暗くなってるから、

気をつけて帰るように。

ん、あと明日からは

授業はなるべく起きておいてね。ん」

「はい! 分かりましたぁ!

先生さいなら!」

あれから何分経ったのかわからない。

あれから先生が

何回「ん」と言ったのかもわからない。

ただ、帰れるという喜びに満ち溢れていた。


俺は大声で挨拶しながら、

錆びつき、年季の入った扉に手をかける。


「あぁ、しずか帰ってもたんか」

仕方ないか。

アホみたいに長かったからな。

夕日がさらに弱まってることを思うと、

多分5時くらいだろう。

今日は久々に1人で帰んなきゃなんないな。わりと家まで遠いんだけどな。



俺はあんなに自分を笑っていた力強い太陽を、少しばかり恋しく思ってしまった。

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