最期の客
ここのバーに来るのは、もう何年振りだろうか。
扉を開けると、懐かしい鈴の音とともに店の独特の雰囲気が漂ってきた。
横のカウンターには、いつものマスターが。
「お久しぶりです。いつもの」
そう言うと、マスターは黙って出してくれた。
「お久しぶりですね。もうこれないはずでは?」
「なんだかね、これて、いや・・・もうきてしまったんですよ」
出されたウィスキーを一口。
「どうしてもここの酒が忘れられなくて。いつだっけかな・・・えーと・・・」
「16年前になります。覚えてもらえているのはうれしいことです」
「マスターは・・・20年前でしたっけな。早いもんですな」
「お互い、年は取りたくないですね」
外がにわかに騒がしくなる。子供の泣き声だろうか。
「本当にいいんですか?」
「ええ、もう、疲れました」
「おじいちゃん!起きてよ!」
泣きながら夫の肩を揺さぶる孫娘。
先ほど、臨終を言い渡せたところだった。
私は、孫のところに駆け寄る
「おじいちゃんね、たぶん、お酒呑みに行ったんだよ」
そう言って孫をあやす。
「どこへ?」
泣きながら尋ねる孫。
「おじいちゃんとおばあちゃんが初めて出会ったバーだよ。もう16年前になくなっちゃったけどね。」
こんな感じの超短いSS書いてたりします。