みそっかす姫と婚約者(仮)の衝突
ただ単に曲がりかドンッがやりたかった…。←すみません。
ラルフ=スチュワートは仮初めの婚約者とぶつかって、かける言葉を失いました。
目の前で尻餅をついている赤毛に翡翠の女の子は大きく目を見開いていた。余程驚いたようで、口からぽろりとパンがこぼれ落ちた。何と声をかけるべきかラルフ自身戸惑った。目の前に座り込んでいる彼女はほっかむりを被り、メイドのお仕着せを着用しており、彫像のように固まっていた。
「君は誰?」
いやいや、聞かなくてもローラだということはわかっている。しかし、ここは知らないふりをして欲しいだろう、と思いぐっと言いたいことは飲み込んだ。
「私は…このお屋敷で下働きをしているアニスですわ」ローラは目を泳がせながら言った。嘘のつき方が子爵そっくりで、かなり無理があったが、あえてそこは指摘しないでおく。
「大丈夫?立てる?」ローラに向けて微笑みながら、彼女に手を差しのべる。ローラは暫くラルフの顔と手を交互に見て、ロールパンを拾い集めてからおずおずとラルフの手を取った。ラルフはローラの手をぐいっと引っ張り、立ち上がらせる。
「ありがとうございます」ローラは目を反らし、ラルフにお礼を言った。そのまま手をぱっと放し、逃げようとするので、ラルフはローラを握る手に力をこめた。
ローラが翡翠の目を光らせながらラルフを睨み付けてくる。逆毛を立てた猫みたいだ、とラルフは思った。
「怪我しなかった?部屋まで送るよ」言いながら、少しだけ赤くなった彼女の額に手を伸ばすと、ローラは手を払いのけて来た。
「どこも怪我をしていないので、結構ですわ!」そう言うと、ローラはお仕着せの裾をつまみ、ロールパンを片手で抱えながら、脱兎の如くラルフの横をすり抜け、とたたたたっと階段をかけ上っていった。
去り行くローラの後ろ姿を見て、ラルフは口許を押さえながら肩を震わせた。