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みそっかす姫の兄の困惑

お務めから戻ったローラの兄ネテロ=バッカスは目の前のカオスな食卓を見て、ため息をつきました。


晩餐には侯爵ご子息のラルフがいた。妹ローラの仮初めの婚約者殿が正式な婚約を結ぶために屋敷にやって来たということらしい。父である子爵はちらちら鬱陶しく母の顔を窺っているが、母はガン無視だ。あの様子ではまた母の機嫌を損ねるような何かをやらかしたのか。あ、今ショックのあまり父の手元でスープがこぼれた。後でまた正座させられるな、合掌。

母アリアは鬼神のような空気を纏いながら、黙々と食事を進めている。食事をするのに殺伐とした空気は要らないと思う。誰も気にしていないから、ま、いいか。

妹アレクシェルはうっとりと侯爵ご子息に見とれてる。食事が喉を通らないようだ。そんなにガン見したら穴が開くからやめなさい。そんな妹を尻目に上の妹ルルは無心にナイフとフォークを動かしている。ルルはアレクシェルと違ってイケメンより食べ物派のようだ。お兄ちゃん、君の将来も心配だよ。

この食卓にローラの姿はない。ローラは侯爵ご子息のことが苦手だから今日も居留守か仮病を決め込んでいるようだ。食事は部屋に運ばせるのだろう。

ふと、侯爵ご子息の前に並んだ料理を見て唖然とした。家族と同じものを食べている。言うまでもないことだが、うちは貧乏だ。今日の献立は細かく刻んだ野菜の浮いてる薄味のスープ、ぱさぱさのパン、シンプルな味付けの肉、野性味溢れるサラダの盛り合わせ。とてもじゃないが、侯爵ご子息のお口に入れるようなものではない。ではあるが、ラルフ君は美しい所作で文句の一つも言わずそれを口に運んでいる。美形は食事をするだけなのにこうも絵になるものかと思うと、ハンカチをきーっと噛み締めたくなる。正座したくないから実際にはやらないけど。

ネテロはローラとお揃いの赤毛を掻きながら、自分はどうしたものかと困惑する。

「ネテロ、いつまで立っているのです」母に絶対零度の視線を向けられ、慌てて席についた。

「これは無作法を。ローラは?」

「外出中です。今日はもう戻りませんよ」

「さようですか」アリアの言葉に首を竦めながら、ネテオはちらりと侯爵ご子息を見た。

「ローラが帰るまでお待ちになるそうです」

「お邪魔しております」ラルフはネテロに向かって爽やかに微笑んだ。世のお嬢様方はこの微笑み一つでイチコロだろう。現にアレクシェルは直撃を受けたらしく隣で悶えている。うん、憎らしいぐらいに効果は抜群だ。

「粗末な屋敷で休めるかわかりませんが、ゆっくりしていって下さい」帰れ、とはおくびに出さずにラルフに曖昧な笑みを浮かべた。

「そんな、とんでもないです。お気遣いありがとうございます」

誰か、この無駄にキラキラした男の回収を要求する。彼が来た日はローラは荒れに荒れるし、父が必ず何かをやらかすので母の機嫌は最悪だ。

控えていたメイに何事かを耳打ちされて、ネテオは思わず父を睨みつけた。泊めるの?あんた、何考えてんだ、と目で伝える。父がしゅん、とうなだれたのは言うまでもない。

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