みそっかす姫の義理の母(予定)の関心
侯爵夫人イザベラ=スチュワートはバッカス邸に着いてローラ=バッカスとラルフ=スチュワートの決闘を聞きました。
イザベラは夫ナディルと共に応接間に通されました。
「アリア様、お久しぶりですわ」
「御無沙汰しておりますわ。イザベラ様」
侯爵夫人イザベラは子爵夫人アリアとは旧知の仲でした。年は離れているものの、二人は全盛期に社交会では二輪の薔薇と呼ばれていました。
「バッカス領は初めてだけれど、森が深くてなかなかに趣がありますわね。途中何度か道に迷いそうになりましたわ」
わりと、ガチで。霧の中で遭難しかけることになるとは思いませんでしたわ。
「世間では秘境と呼ばれているようですの」
アリアは他人事のように言いましたが、バッカス領はマニアからは修行スポットとして人気でした。何かが出そうな鬱蒼とした森にそびえ立つ古びた洋館がバッカス邸です。
コンパスも狂い方向がわからなくなり、馬車は何度となく道に迷ったことをイザベラは内緒にすることにしました。そんな辺境まで王都付近のスチュワート領から通いつめる息子のローラへの思いは執念を感じさせます。我が子ながら時々怖くなりますね。
「ところで、ローラさんは?」
私の未来の娘はどこ?と期待で胸が高鳴ります。心なしか鼻息も荒くなります。あら、やだ。はしたないわ。でもでも、仕方ないでしょう?だって、ずっと娘が欲しかったんですもの。
「ローラは所用で王都に出掛けていることになっておりますのよ」
「出掛けていることになっている、ということは…。あら、またラルフはフラれましたのね」
実はローラに関する家族ぐるみの隠蔽工作はとっくの昔に侯爵家(ラルフ含む)にはばれていました。元々子爵の遺伝子が良い仕事をしたせいか、アリア以外のバッカス一族は嘘がど下手でした。そんなところも可愛いのだけれど。
「ラルフ様はうちのローラのどこを気に入ったのでしょうか?」
「全部、と言っておりましたわ」
「左様ですか」
その時でした。バターン、という大きな物音とともに急に客間に赤毛の乱入者が飛び込んできました。アリアが物凄い形相でその人物を睨み付けたので、彼は彫像のように固まりました。あら、まるで蛇に睨まれた蛙のよう。部屋の温度が急激に下がった気もしますが、薮蛇になりそうなので突っ込みませんよ。
「あ、あ、あ、た、た、た…」
「来客中です。騒々しいですわよ、あなた。何なのですか?」
「その…アリア、た、大変なんだ。うちのローラが」
「ローラがどうしたというのです」
「ら…ラルフ君に決闘を申し込んだらしいんだよ」
「はぁ?」
まぁ!うちのラルフは決闘を申し込まれたようです。それにしても婚約者に決闘を挑むなんて子爵ご令嬢はなんて情熱的な子なのでしょうか。早くお嫁に来ないかしら。
「あらあら、まぁまぁ」
「イザベラ、楽しんでいる場合ではないよ。ラルフがローラさんにけがをさせては大変だ」
それまで黙ってやり取りを見守っていた夫ナディル=スチュワートがイザベラを嗜めます。
「いいえ。ラルフ様の方が心配ですわ」
「それはどういうことかしら?」
「あの子は剣の筋が良くて、夫から手解きを受けておりますの」
アリアの夫ミハエル=バッカスは無敗の鉄壁の騎士として高名です。人は本当に見かけによらないと思います。吹けば飛んでいきそうな今の情けない姿は鉄壁の騎士様の面影もありません。
「アリア、どうしたらいいんだ?」
あわわわわ、と涙目でアリアに指示を仰ぐ子爵は目下奥方には全敗中のようですわね。アリアもこめかみを押さえていました。
「子爵様、アリア様。あの子達が自分で決めたことならそれを見守るのも親の務めですわ」
「そうは言いますが、ローラは手加減を知りませんわ」
「ラルフ君に傷でも負わせたら、やっぱり大変だよね」
自分の娘は怪我してもいいんかいっと隣で夫ナディルが突っ込みたそうにうずうずしています。普通は男女逆ですものね。貴方の気持ちはよくわかりますわ。
「ラルフも多少は剣の心得があるから大丈夫でしょう。むしろ、決闘という形でも恋い焦がれたローラさんに会えるなら本望に違いありませんわ」
イザベラの言葉に微妙な雰囲気になりました。何はともあれ、念願のローラさんに会えるので、楽しみなことこの上ありませんわね。




