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みそっかす姫の父の胃痛

子爵ミハエル=バッカスは今日も胃を痛めていました。


目下の悩みは目の前で上品に紅茶を啜る娘の婚約者殿ラルフ=スチュワート君です。全身から家格の違いがにじみ出ていて、風格があります。沈黙が重いので、早く帰ってくれないかなぁ。

スチュワート家から娘に縁談の話が舞い込んだときは二つ返事で快諾し、小躍りしたものです。彼は未来の侯爵、将来有望な上イケメン、お金持ちのハイスペック男子だと評判でした。そんな彼との縁談を喜ばない年頃の娘がいましょうか。ローラに、と聞いた時は首を捻り、何度か間違いではないかと確認しましたが、間違いでないことがわかると余計に嬉しくなりました。妻と娘に喜んで報告すると、なぜか白い目で見られました。ローラは1ヶ月口を聞いてくれませんでした。


娘ローラは数年前に連れていった夜会を機にやさぐれて引きこもりになりました。子爵は非常に胸を痛めると同時に責任を感じました。ローラは妻アリアではなく、子爵によく似てしまいました。燃えるような赤毛、翡翠のつり目、低い鼻、鼻の頭のそばかす、どれも子煩悩な子爵には目の中に入れても可愛いと思うのですが、年頃の娘にはそうではなかったようです。子爵は自分のDNAを呪いました。妻に似た他の姉妹は美少女で巷では真珠姉妹と呼ばれています。ローラがこれには数えられず、みそっかすと裏で密かに揶揄されているのを知り、心を痛めました。あぁ、父が不甲斐ないばかりに本当にすまない、と子爵は思ったものです。


こんこん、というノックがして、ローラ付きの侍女のメイが入ってきました。

「旦那様、失礼します」

ちらりとメイに視線をやると、メイが首を左右に振りました。ローラは今日もラルフ君には会いたくないようです。メイの合図に子爵は頷きました。

「ラルフ君、その…ローラは出掛けていて暫く戻ってこないようだ」こほん、と咳払いをして子爵は目の前のラルフ君に告げます。

正直、これで通算25回目の言い訳になるので、後ろめたいことこの上ないです。自然と目が泳いでしまってメイに睨まれてしまいました。はい、すみません。精一杯頑張らせていただきます。自分が蒔いた種ですからね。

「そうですか」

ラルフ君が整った顔を曇らせるのを見て子爵は胸が痛みました。本当は自室で引きこもってるんだよ、と白状しそうになりましたが、メイに睨まれたので口をつぐみます。

「いつ帰って来るともわからないのにお待たせするのは申し訳ないので今日はお帰り願えるかな?」

無駄足を踏ませて申し訳ないが、いい加減に諦めて頂けないだろうか、という期待を込めてちらりとラルフ君を見ます。

「では戻られるまでお待ちします」

「はい?」

子爵は一瞬自分の耳を疑い、思考が停止しました。それは非常に困ります。ローラは本当は出掛けてないのです。ただただ、自室に引きこもってるだけ。

「ローラ様が戻られるまでお待ちします。幸い用事は全て片付けて参りましたので」

「あの…えっと。ローラは遠方に出掛けておりまして、いつ戻るかわからないのですよ」

「大丈夫です。ご迷惑でなければ、泊めて頂ければ助かります」

ご迷惑だよ、迷惑極まりないよ。子爵は心の中で叫びます。ここで断れなければローラはまた暫く口を聞いてくれないでしょう。

「可愛い未来の息子の頼みだ。迷惑なわけがないじゃないかぁ」気弱な子爵には断ることはできませんでした。子爵の言葉を聞いて、ラルフ君は爽やかに笑いました。

メイの「どうするつもりですか?あんた」という視線が子爵に針の筵のように突き刺さります。子爵は心を落ち着かせるために紅茶を口に含みました。

「それは良かったです。実は今日は正式な婚約の話で伺ったのです」

「ぶふぉっ!?」

子爵は盛大に紅茶を吹き出しました。それを見てメイは頭を抱えました。

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