侯爵家従僕の疑問
侯爵家従僕タナカは坊ちゃま宛に届けられた手紙を見て、言葉を失いました。
タナカは先程子爵家の侍女メイから手紙を預かりました。何でもローラ=バッカス様から坊ちゃまに宛てられた手紙だそうです。忠実な従僕たるもの、中身を見るなんて、はしたない真似はしません。ええ、しませんとも。
ただ、書かれていた文字に動揺を隠せないタナカはまだまだのようですね。というか、見まちがいかと思い、二度見しました。そこにはおどろおどろしい文字で「果たし状」と書かれておりました。
坊ちゃま宛に女性から果たし状が届くのはこれが初めてのことでございます。常日頃から沢山の恋文を贈られる坊ちゃまも女性から果たし状を贈られるのは初体験のはずです。しかも、それが仮初めとはいえ、婚約者からの文なのですからただただ驚くしかないですね。
「タナカ、どうしたんだ?」
タナカの挙動不審な態度に坊ちゃまは気づいたのでしょう。坊ちゃまが心配そうにこちらを伺っています。
「坊ちゃま、これを。ローラ様からだそうです」
「ローラ様から?」
坊ちゃまは嬉しそうにタナカから手紙を受けとりました。ローラ様からの手紙自体、頂けることは少ないのですから当然の反応かもしれませんね。ああ、可哀想な坊ちゃま、これから絶望のどん底に叩き落とされるのでしょう。
坊ちゃまは手紙の表に書かれている文言を見て、一瞬固まりましたが、暫くして俯き肩を震わせました。きっと怯えてらっしゃるのでしょう。
手紙の中身に目を走らせた坊ちゃまは暫くすると、手紙を大事そうにしまいました。ローラ様からの手紙を大事にとってあるのをタナカは知っております。
坊ちゃまは嬉しそうに机に向かい、紙に筆を走らせ始めました。
「タナカ、これをローラ様に届けてくれないか?」
坊ちゃまから手紙と王都で買い付けた有名店のお菓子を受け取ったタナカは首を傾げました。手紙には果たし状と書いてあったように思いますが、見まちがいだったのでしょうか。
「ローラ様がやっと僕に会う気になってくれたらしいんだ」
嬉しそうに言う坊ちゃまにタナカは閃きました。もしかして果たし状というのは照れ隠しだったのでしょうか。それなら坊ちゃまの嬉しそうな顔も納得ですね。
一先ず坊ちゃまの返事をローラ様に急いで届けることにしましょう。そうと決まれば善は急げです。




