みそっかす姫の名案
みそっかす姫は兄に脇を抱えられながら、名案を思い付きました。
「そうよ!自分より強い令嬢って嫌じゃない?」
「は?」
ネテロはローラの脇をがっしり抱えたまま、呆れた声を上げました。侍女のメイも同様に鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしています。
「だから、決闘を挑むのよ」ローラは目を輝かせながら言いました。
「ローラ、お兄ちゃんは最近、君の考えることがわからないよ。決闘、と聞こえたけど空耳だよな」
「私も決闘とお聞きしたように思いましたが、最近疲れているのでしょうか?」
そもそも誰と?と二人の顔には書いてありますが、愚問というものですね。言わずもがな、ローラの敵はただ一人です。
「聞き間違いではないわ。侯爵ご子息に決闘を挑んでぎゃふんと言わせるのよ」
ローラの言葉にネテロがぎゃふんと言いましたが、聞かなかったことにしましょう。
「どこに仮初めの婚約者を決闘で負かそうとするご令嬢がいるんだよ?」
「お嬢様、いい加減向き合ってみてはとネテロ様もメイも申し上げましたが、そういうことではありませんわ」
「侯爵ご夫妻が到着したら、どのみち逃げられないわ。なら、いっそこれ以上ないくらい嫌われてみようと思うの」
ローラは剣術においてはネテロより筋が良いと褒められていた。社交界を自主的に引退、領地に引きこもるようになってからは剣術の鍛練にも磨きをかけていました。いつまでも親の脛をかじって引きこもりライフを続けられるかもわからないし、結婚は既に諦めていたので、いつ、どこに放り出されてもやって行けるように実用的な知識も身につけていたのです。いつ、何時サバイバルに突入するとも限りませんからね。
「ローラが誰を参考にしているのか、お兄ちゃんには何となくわかったけど、とりあえずやめないか?」ネテロが婚約者の姿を思い浮かべながら唸り声を上げました。
「せめて別の方法にしませんか?奥様のお耳に入ればお小言では済まされませんし、決闘であの侯爵ご子息の美しいお顔に傷でもつければアレクシェル様や世のご令嬢方の悲鳴や恨み言は絶えませんわ」
「メイ、今更よ。既に実害は出てるじゃないの」
実は嫌がらせの手紙は届いていた。もっとも、なぜか兄ネテロ宛の物の方が圧倒的に多かったが。
「ローラ、確かにそれで侯爵ご子息に嫌われたとしても、他に君の貰い手がいなくなるのはお兄ちゃん、心配だよ」
「それも今更ですわ」とっくに諦めた、とローラは男らしく切り捨てました。社交界を引退した時点で貴族の令嬢としての幸せは諦めたので、今更他の貴族のご子息の評判を気にする必要はありません。バッカス領に引きこもり続ける限りはローラの耳には届きませんからね。
「そうと決まれば善は急げよ」
机に向かって筆を走らせるローラの姿を見て、メイとネテロはため息をつきました。




