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閑話~みそっかす姫の兄の悩み中編~

ネテロ=バッカスは夜会でエスコートしていた恋人にフラレました。


「はぁ」バルコニーで一人佇み夜風にあたりながら、ネテロはため息をついた。

ため息をついては幸せが逃げるのはわかっているが、こればかりはどうしようもない。失恋はこれで何度目になるのか。

「やぁ、ネテロ。元気がないな」

「フィン」

フィン=ガーランド。亜麻色の短髪に同じ色の瞳をした長身の美しい友人は柳眉をひそめた。

「リリスにフラれたんだ」

「リリス嬢に?何かの間違いじゃないか?先程はあんなに仲睦まじかっただろう?」

確かめてくる、と行こうとするフィンの頭をがしっとロックして何とか留めることにネテロは成功した。何かの間違いなのはお前の格好だろう、と突っ込みたい。

「なぁ、フィン。俺の失恋はおいといて、だ。お前のその格好は色々問題じゃないか」

どこが?と疑問符を浮かべるフィンの全身をじと目で眺める。グレーの光沢のある燕尾服に厚底の革靴、飾りのついた帽子はどこからどう見ても完璧な紳士だ。問題はこいつの性別にある。

「夜会ぐらいはドレスを着ろや」

「一応ドレスも用意していたんだが、しっくり来なくてね。着替えたんだ。こっちの方が似合うとネテロも思うだろう」

そう言いながら、甘いマスクでサムズアップする友人の顔をネテロは呆れ顔で見るしかなかった。確かにフィンの言うとおり、ドレスより今の燕尾服の方が似合うのだろう。だがしかし、こいつは生物学上は女だ。

「お前の両親は何も言わんのか」

「涙を流して喜んでたよ」

悲しんで泣いていた、の間違いではなかろうか。フィンの両親の公爵夫妻に心から同情した。フィンの侍女連中はノリノリで支度を手伝ったのは細かい意匠に現れている。

「世の中は不公平だなぁ」

ネテロはどこまでも平凡な男だ。飛び抜けた剣の才能も類稀なる美貌も優秀な頭脳も持ち合わせていない。みそっかすと呼ばれる妹を含めた兄妹の中でも一番の凡人だという自負はある。

「卑屈だねぇ。そんな君に良縁を紹介しようではないか」

フィンはそう言いながら絵姿の書かれた額縁を取り出してきたので、ネテロは無言で叩き落とした。

「いらん。俺が欲しいのは平凡な幸せなの!金持ち貴族の高慢姫との縁談なんて願い下げだ。失恋直後の俺の生傷に粗塩をすり込むなよ」

フィンが紹介しようとしたのは18才になる彼女の妹だ。巷では美貌だが、高慢ちきで鼻持ちならない金持ち貴族のご令嬢として評判で、縁談がまとまらず行き遅れかけている。金遣いも荒いらしいので、貧乏子爵夫人などまず務まらないだろう。

「そう言わないでくれよ。私も兄も妹の行く末が心配なんだ。美人だし、意外に可愛いところもあるんだよ」

「俺はお前の行く末も心配だけどな」

「ああ。優しいネテロならそう言うと思って、もう一枚用意したんだ」

ごそごそとフィンが取り出してきた絵姿に凛々しく書かれた人物を見てネテロは吹き出した。

「お前な。見合い用の肖像画くらいドレスを着ろや」

「しっくりこなかったんだよ。最近、両親が結婚しろとうるさくてね。兄上がいるから公爵家は安泰のはずなんだが」

「確かに妹よりお前だわな。でもな、俺に押し付けるなよ。俺は貧乏子爵の跡継ぎ、お前は一応公爵家令嬢だろうが」

「その辺は問題ない。両親も兄上も私をもらってくれるなら爵位は問わないと言ってくれてるしな。私もそろそろ良い年だから」

要約すると、頼むから結婚してくれということだろうか。確かに公爵家ご令嬢二人が揃いも揃って未婚なのは少々外聞が悪い。しかも一人はこれだ。

「お前も大変なんだな。でも、俺の好みは平凡で素朴、家庭的な娘なのよ。お前も知ってるだろうが」

「条件は満たしているではないか。私は野営経験もあるから家事は一通りこなせる」

フィンは自分の顔面偏差値が非常に高いことも非凡であることも自覚がないらしい。ネテロは文武ともこいつには絶賛連敗中だ。


「俺はさ、癒しが欲しいんだ」

「なら、リリス嬢と仲直りしてきたらどうだ?何なら、私が取り持ってやろうか?」

それは無理な話だとネテロは思った。ネテロがフラれた原因はリリスの心変わりだ。そして心変わりの相手はネテロの親友フィンだったから。

「フィン、お前、巷では恋泥棒って言われてる自覚ある?」

「身に覚えはないな。私ほどモテないヤツも珍しいと思うが」

それは男に限る。女心のわかるフィンは無自覚で女性からはモテている。そのため世間の男共からは「恋泥棒」の名で妬まれているのだ。本人の耳には届いていない。

「お前がドレスを着ない限り、お前は永遠に結婚できないぞ」

「まぁ、私も無理に結婚する気はないからなぁ。それより今は親友と妹の幸せを祈るばかりだよ」

ネテロはフィンの様子を見て、ため息をついた。フィンは身分の差も気にしない良いヤツだ。しかし、こいつが傍にいる限り、ネテロに春は来ない。ネテロがフィンを理由にフラレたのはこれが初めてではなかった。

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