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みそっかす姫の侍女の驚愕

メイ=マーコムはローラ=バッカスの姿を見て、呆れて言葉を失いました。


「お嬢様、これはどういうことですか?」

メイがローラ様の夕食の食器を下げようと部屋を訪ねると、ローラ様はお部屋にいらっしゃいました。頭に薄ベージュの布を被り、侍女のお仕着せを着てもそもそ動いていたお嬢様の後ろ姿に声をかけると、びくりっと肩が震えました。ゆっくり振り返ったお嬢様はパンを口一杯に頬張っていました。手にはロールパンが一つ握られています。

「これは…その…仕方がなかったの!」

「夜中にそんなに召し上がれば太りますわよ。それに食堂につまみ食いに行ったことが奥様のお耳に入れば大目玉です」

ローラ様のお母様アリア様は元々は名門侯爵家出身のかつて、社交界の花と謳われた程のお方です。それゆえマナーには非常にうるさいのです。実際先程の晩餐で醜態を晒した旦那様は今、自室で奥様よりお叱りを受けてすすり泣いてらっしゃいます。自業自得ですが。

ローラ様の顔色がさーっと変わるのがわかりました。

「サムが私を売ったの?」

「サムがお嬢様を売るはずがないでしょう?」

バッカス子爵家に仕える従僕の共通認識として旦那様には逆らっても奥様には絶対逆らってはいけない、というものがあります。誤解のないように言い直すと、旦那様は時々予想の斜め上の考えなしの行動を取って、自ら墓穴を掘ることがあるので、そうならないようお諌めするのも従僕のつとめです。

サムがローラ様のつまみ食いを奥様に報告することはないでしょう。何故ならば、ローラ様のつまみ食いを止めなかったことでサム自身もお叱りを受けることになるからです。

「お嬢様、廊下でどなたかに会いませんでしたか?」

「いいえ?誰にも会わなかったわ?」ローラ様の目が不自然に泳ぎます。旦那様もそうですが、ローラ様は嘘をつくのが非常に下手です。

「実はラルフ様より赤毛の侍女アニス宛に差し入れが届いておりまして」

アニスという名の侍女は確かにバッカス邸にはいます。ですが、まず彼女は赤毛ではありませんし、御年42才の既婚者です。子供が3人もいる恰幅の良い女性です。

最初その差し入れを侯爵子息従僕のタナカさんから受け取ったメイは首を捻りました。ローラ様にご執心の侯爵ご子息が年上熟女好きだという噂を聞いたことはありませんでしたし、何より二人には接点がありませんでした。

アニスの夫であるサムに事情を聞くと、しどろもどろになってローラ様が食堂にいらしたことを白状しました。

「し…知らないわ!」

ぐぎぎっと顔を逸らすローラ様にメイはタナカさんからお預かりした物を渡しました。色々問題があるので、流石に本物のアニスに渡すなんてことはできません。ええ、できませんとも。

差し入れを受け取ったローラ様は包みの中身を見ると顔を綻ばせます。中には美味しいと評判のお菓子が入っていました。添えられた手紙を見て、顔をしかめて何やら唸りながら胃を押さえておいででしたが、いつものことなので見なかったことにします。

「お嬢様、奥様に見つかればお小言ではすみませんので、お着替えしてお休みくださいませ。それと、そのお菓子は明日以降になさって下さいね」

メイは今にもお菓子に手をつけそうなローラ様に釘を差します。どうでもいいことですが、最近のラルフ様からの贈り物は食べ物が多いです。お嬢様の宝飾類への反応が薄いので、餌付けする作戦にシフトチェンジした模様です。ローラ様が懐柔される日もそう遠くないのかもしれませんね。

「わかったわ。ねぇ、メイ。私は変装の才能があるのかしら?」

純粋にばれていないと信じているローラ様にそれはございません、と即答することはできませんので、私は心の中でだけ突っ込みを入れることにしました。

読んで頂いてありがとうございます。

余談ですが、ローラの母アリアは子爵にベタ惚れです。アリアは周囲の反対を押しきってバッカス子爵家に嫁いできました。どうでもいい裏事情でした(笑)

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