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その後に恋をしたい。

「えー?リレー?」私は心底驚いた。


小、中と9回体育祭をしたけれど、私は1度も活躍したことはなく、玉入れとか、綱引きとか、そういう、競技しか出たことがなかった。

そんな私が、だ。

急に徒競走も、記録委員も、放送委員もすっ飛ばして、体育委員の小海さんがリレーの選手になってくれ、なんて。びっくりだ。とってもびっくりだ。

「ダメかなぁ…速い順だと、成海さんなんだけど…」

えー?確か記録は8秒台で、そんなに速くなかったはず。

すると、横から、

「いいじゃん。柚がリレーとか、なんか和む。」

「そーだよ。やってみなよ」

いつもご飯を一緒に食べている、彩ちゃんと結衣ちゃんが口を挟んだ。

「そうかなぁ。どうしよう」

「お願い!」小海さんが手を合わせた。

どうしよう。これって、やった方がいいよね?私がやらなかったら、小海さん、困っちゃうよね…?断れない…断れないや…。

「じゃ、じゃあ、やらせてもらおうかな。」

まだやっぱり迷いは残ってたけど、どうにか言った。

「本当に?ありがとう、助かった!」小海さんはホッとしたように笑った。

小海さんはいつも、5月になった今でも一匹狼って感じ。笑ったところは初めて見たような気がした。

だからかな、ショートカットを揺らしながら去っていく小海さんの後ろ姿は爽やかで、カッコよかった。

「柚ー。行くよー」

私は2人のところに戻って、いつものおしゃべりに加わった。

小海さんがあんな顔で笑うことを知れたことがなんとなく、嬉しかった。


お昼休み。

いつものように3人でお弁当を食べてた。ちなみに私はいつも自分でお弁当を作っていて、今日はサンドイッチ。

「ねえ、このクラス、何気にかっこいい人多くない?」結衣ちゃんが言った。

「あーわかる!綾瀬とかね!かっこいい!」彩ちゃんが乗った。

綾瀬くんは、結構うるさいタイプで先生に叱られてばかりだ。けど顔は整っているから女子には人気がある、らしい。

「綾瀬ー?あたしは唯川派かな」

唯川くんは綾瀬くんと仲がいい。知っているのはそれくらい。だけど雰囲気的に、女の子は好きそうだな、と思う。

「あー。そっち系?マジか。柚はどう思う?」

まさか自分に振られるとは思っていなかった。

「私は、誰でもないよー」

本当のことを言った。

「絶対嘘ー。」結衣ちゃんは笑った。

「もー。純情だなぁ。吐けよー」彩ちゃんはふざけて怒ったふりをする。

「本当だよー」

彩ちゃんが小さい声で聞いてきた。

「彼氏は?」

結衣ちゃんも頷く。

「そうだよ、彼氏は?」

「私?いないよー。いたこともないっ」

もちろん、そうだ。彼氏はおろか、好きな人も、いなかった。

高校こそは運命の人に出会うんだ。そうじゃなくても好きな人くらい作るんだ。そう思っていたけれど、現実はそんなに甘くはなかった。高校の入学式を終えて、1ヶ月経っても彼氏はもちろん好きな人も気になる人も男友達さえも出来ない。私は引っ込み思案な方だから、2人も友達が出来て、むしろよかった方だ。と思うことにしている。

「え?じゃあ、2人はいたの?彼氏…」

2人は顔を見合わせた。

「なんで今まで聞かなかったんだろ」彩ちゃんは不思議そうに言った。「あたしはいたよ。」

結衣ちゃんも頷く。

「私もいたかな。」

驚いた。リレーの選手になったことよりは驚かなかったけれど、すごいな、と感心した。

「すごいな。そういうのって、憧れちゃうよ」

彩ちゃんはへへっと笑った。

「んー。だけど、こういう純情な子が大恋愛するんだよね。マンガとかじゃ。」結衣ちゃんが羨ましそうに言った。

「無理じゃないかなぁ。私、誰か好きになったことないの」

私は言った。こんな話を友達と出来るって楽しいな、と思った。

「マジでか!だけど好きな人とか出来たら教えてね!ほんと、楽しみだわー」

彩ちゃんがそう言ってくれたから、本当に嬉しくなる。

好きな人が出来なくても、この2人と友達になれてよかったな。心から本当にそう思った。


「いや、マジなんだよ。いや、ほんっとに、あたしは悪くないし」

「認めなよー」

彩ちゃんと結衣ちゃんがふざけているのを私はぼーっと眺めていた。

私はいつもこういうおふざけに慣れていなくて入っていけない。だけど、見ているだけでとても楽しい。それに2人も私におふざけを強要しないから、すごく楽だ。

そんなことを思っていると、小海さんに声をかけられた。

「成海さん。」

きっと、リレーの話だ。

急に不安になる。転んだらどうしよう。バトンを落としたら?渡す相手を間違えたら…?どうしよう。

「今日、放課後どうかな?」

私は調理部だけど、今日はない。

テニス部の彩ちゃんと、女子サッカー部の結衣ちゃんは部活があるからちょうどいい。一緒に帰れる。

「うん。空いてるよ」

不安だな。

男子もいるんだよね。意地悪されないかなぁ。

なんて、小学生レベルの心配をしながら頷いた。

やっぱり、小学生の頃男子にいじめられたことがあるからかなぁ。

私にとって男子はドキドキする存在ではなく、ビクビクする存在だ。

こんなんじゃ、やっぱり恋なんてできないよね。

ってそんなことを考える前に、まずはクラスのリレーでみんなに迷惑をかけないようにしなくちゃ。

恋をするのはその後でも遅くないから。その後に恋をしたい。

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