ガーディアン・嫁
夏の間、俺は中々クーラーのある居間に入れてもらえませんでした。
涼しいのを独り占めしたい嫁が意地悪で入れてくれないとか、俺が整備士という汚れ仕事の為、身体・服の汚れが家具に移るから入れてもらえないとか、そんな理由だったら納得もいきます。
……そうです、嫁の『ブーム』です。また謎の。
きっかけは、なんだったかはわかりません。
ある時を境に、部屋の入口に嫁が立ちふさがり、入ろうとすると押し返してくるようになりました。
「なんなの?」
「でぃーふぇんす! でぃーふぇんす!」
聞いても答えが返ってくる可能性は低いとは思ってましたが、まさか意味がわからないとは思いませんでした。
腰を落とし、無駄に腕を横に振りながら、バスケットボールのディフェンスポーズ(だが、何かおかしい)で、立ちふさがる嫁。
横に動けば横に動き、嫁が動いた隙に入ろうとするとタックル。無理やり嫁ごと押して入ろうとすれば、ふすまと柱に両手をかけ入れないようにする始末。
いいんですけどね、別に。
我が家、ふすまと柱がメインなので、居間に通じるのは別にひとつのふすまだけじゃないので、入ろうと思えば三か所から入れます。
なので、嫁の行為に諦めたフリをして、嫁がふすまを閉めて暫くしたタイミングで、別のふすまをあけます。
「そうはさせじっ!」
嫁もそう来るのは予想済みだったようで、獲物を追う猫のようなギラギラした視線でこっちを狙ってきます。
どうあっても入れたくないようです。
「としぃさんは、この部屋への入室を禁ず!」
「なんなんだよ、俺も涼ませてくれよ」
「入れたら面白くないじゃん」
嫁を抱えあげ、無言で抱き上げ部屋の外に出すと、俺は黙ってふすまを閉めました。
「あああああ、ダメだよ、としぃさんは入っちゃいけないんだよっ!」
「誰が決めたんだ」
「私がルール!」
「知らん知らん」
どうやら構ってほしかっただけの嫁は、絡んで貰ったことに満足してくれたようで、それ以上は何も言いませんでした。
が、翌日から構ってもらえたのが嬉しかったのか、それはほぼ毎日続きました。
今は玄関入ったところで、立ちふさがってる事が多いです。
暑いのに、無駄に体力使うせいで、余計暑いっつーの!
教訓。嫁は構うとつけあがる。