表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

魔王、勇者と話す

【Side:魔王】


 目があった隙のない男は、どうやらかなり親切な男だったらしい。

 勇者について知りたいといった私を、立ち話ではなんだとおすすめの宿に誘ってくれた。

 

 人界に来て一日目、転移してからずっと調査で移動し続けており、さすがに疲れてきている。その疲れを読み取ってくれたのだろう。流石(推定)できる男。さらに宿代も払おうという彼に、流石にそれは悪いと支払は私がした。なぜか彼は変な表情を浮かべていたけれど、人界では宿代は男性が払うというルールがあるのかもしれない。だとしたら、気を使ってくれた彼には悪いことをした。

 

 これまで人界に対して興味もなく、父親にぶちキレた勢いそのままに人界に来てしまったため人界についての知識に不安がある。もし政務で人界に降りることがあれば事前に常識やしきたりなど下調べするのだが、今回は突発的な訪問だ。人界の者からみておかしなことをしないよう、なるべく周りの者の動きを見て動いたり、周りの者に合わせなければ、と思っていた。

 

 とはいえ周りの目が多ければ多い程不審な点は目立つだろうから、宿のような密室で話が聞けるのは大歓迎だ。

 

 彼がよく利用するらしい部屋は、とても居心地の良さそうな部屋だ。そこそこ広く、掃除が行き届いているように見える。どうやら浴室もついているらしい。どうやら机やいすの類はないようなので、一人用にしては大きい寝台に腰掛けることにする。彼も私に合わせてか、少し隙間を開けて隣に座った。

 こういう所は初めてだし、何かおかしなことをしないかと妙に緊張してしまう。

 

「あの、誘ってくれてありがと」

「いいえ。こちらこそ嬉しいよ、あんたみたいな美人さんとオハナシできるなんてね」

「…さっき声を掛けた時もそうだったけど、口がうまいのね」

「そうか?本当のこと言ってるだけだけだが」


 そういって笑う彼は、どうやら女慣れしているらしい。とはいえ勇者の女好きの話を聞いたときに感じたような嫌悪感はなく、その笑顔には好感を受ける。私を気遣ってこのような場所に移ってくれるところも好ましい。彼の笑顔のおかげか、先ほど感じた緊張もちょっと解れる。

 

 女好きという勇者も、彼のような人物だといいのだけど。

 

「さて、いきなり、ってのもあれだから、世間話でもしようか」

「あ、そ、そうよね。世間話、からよね!」


 危ない。本題をずばっと切り出そうとしてたけど、どうやら人界ではいきなり本題に入るのは失礼に当たるようだ。まあこの街の周りにも魔物の気配はないし、勇者に会うのはそんなに急がなくてもいいかもしれない。

 

(でも世間話って…何を話せば)


 人界の世間の事など知らない。

 

「そういえば、まだ名前聞いてなかったな」


(なるほど!自己紹介ね!)


「ごめんなさい、私ったら名乗りもしてなかったのね。私はルトというの」

「ルト、か。俺は…そうだな。ここではファヴかファールとでも呼んでくれ」

「ファール、ね。よろしく」


 笑顔で手を差し出す。笑顔は全世界の友好手段、お世話になる人には笑顔を心掛けているものの、人界に来た緊張からかあまり笑っていなかったように思う。

 

「っ!」


 どうしたのだろう。ファールの様子が少しおかしい。笑顔はよくなかったのだろうか?いや、街で見た限り笑顔の人はたくさんいたし、大丈夫だろう。ということは、手?手を差し出すのが何かおかしかったのかも。えぇい出してしまったものはしょうがない!笑顔でごまかせ!

 

 

「う、うふふふっ、ファール、どうかしたかしら?」

「あ、いや、別にっ!えーっと、ルトはこの辺に住んでんの?俺結構この街来て結構たつけど初めてルトに会うよな。ルトみたいな美人、そうそう見逃すはずもないと思うんだけど」

「(よしごまかせた!)あの、私は今日ここに来たの。勇者さんに会いたくて」


 笑顔笑顔。


「っ、それは嬉しいな」


 なぜファールが喜ぶ。勇者目当てとはいえ街に来てくれて嬉しいってこと?よくわからないけど、これもしきたりみたいな返しなのね、きっと。

 

「ファールは、流しの傭兵みたいなもの?この街にきて、ってことは前は別の街にいたのよね」

「流しの傭兵か…。まあ、そんなようなもんかな、実際。魔物の出る国に呼ばれて行って、しばらくはそこに滞在して、ついでに金ももらうから」

「えっ?!」

「ん?」

「あっ、いや、なんでもない、わ」


 …いま、聞き捨てならないことを聞いたきがする。呼ばれるの?ファールが?魔物の出る国に?!

 それってつまり…

 

(魔物の相手をしてるって、勇者一行だけじゃなくて傭兵もってこと?!)


 とんだ誤算だ。てっきり魔物退治は勇者一行だけがしていると思っていたから、お礼をするのは勇者一行だけでいいと思っていたのに…。ファールのような流しの傭兵まで動いているとなると、とてもじゃないけど全員にお礼をして回ることはできないだろう。

 しかも、魔物の出る国から報奨金まで出ているようだ。食糧への直接被害だけでなく、金銭にまで間接的に損失を出させてしまうとは…

 

(とーさーん…)


 この怒り、ここで発散するわけにはいかない。この怒りのこぶしは、魔界で父にぶつけるまで取っておくのよスルトヘル!


 それにしても勇者さんめ。すごい実力者っていうなら傭兵を呼ばれる前に魔物を始末しなさいよ。やれ最強だの奇跡的な剣筋だの、雷系魔法を使われれば敵なしとか、随分褒められてたくせに!周りに侍らしているという女性たちの実力も相当のものだけど、勇者さんは更にとびぬけている、との噂だったのに、案外そうでもないのかもしれない。あーもう!

 

「やるならしっかりやりなさいよね!」

「は?!」


 いけない。愚痴を言葉にだしてしまったみたい。

 

「ごめん、聞こえちゃったよね。なんでもないから」

「…いや、この際思ってること言ってくれ」


 …ファール!愚痴とかたまってることを吐ききってすっきりしろ、ってことよね?なんていい人なのかしら!


「じゃあ言わせてもらうけど、勇者って、思ってたより凄い人じゃないのかなぁと思ってね!ここに来るまでにいろんな人から話を聞いて、どんなに凄い人なのかしらと想像してたんだけど、ファールの話を聞いてるとね。ちょっと、正直、期待はずれっていうか」


 やっぱり傭兵にまで協力してもらってる、っていうのが!もう!もう!


「やってらんないって思っちゃうのよ!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ