魔王と勇者、出会う
【Side:魔王】
ニダヴェの城下町にきたはいいが、さて勇者はどこか。
これまで勇者一行が訪れた国では、大概国王の住む城に歓待され、そこを拠点に動いていたようだ。このニダヴェでも高確率でこの城下街か城にいると思うのだが、城にいるとなると普通に考えて容易には会えないだろう。会えるような機械を作るにしても、謁見申し込みとか必要だろうし、それだって自分のような身元不明な者は通されないに違いない。
街に降りてきていれば可能性はあるが、しかし…。
魔物の行方を調査しようとこれまで周った街では、声を掛けてきた男性ばかりから話を聞いていたせいか、勇者についての情報が行動に偏ってしまった。その行動についての話以外では、女好きとか周りの女性が可愛いとか美人とか、勇者に同行する女性の容姿について詳しくなってしまい、勇者がどんな外見をしているのかわからない。
うつむいて思案するが、まあ相手は有名人だ。そこらの人にでも聞けばすぐに居場所はわかるだろう。
そうして顔を上げると、一人の端正な顔の男と目があった。
こげ茶の髪に緑の瞳。その瞳からはこちらを検分するような光を感じ、若干気分が悪い。身体は相当鍛え上げられており、たたずまいからはこのような市井であっても適度な緊張を感じる。
相当できる男のようだ。
自分に何か不審な点があっただろうか。見た目からは自分が魔族だとばれる要素はないはずだし、人界の常識はずれな行動をしてしまったか…?
と、男がこちらに歩いてくる。
まあいい。下手に警戒しては怪しいものですよ言っているようなものだ。変に意識しないで、あの男に勇者について聞くことにしよう。
「あの…」
◇ ◇ ◇
【Side:勇者】
女を探しに城下町に降りて、身体付きなどからこれは、と感じた女は思ってもない上玉だった。
顔立ちは美人系、顔も手や首と同じく白く透き通っている。無表情の顔からは少し冷たい印象を受けるのも、大人の女が好みの自分にとって好印象。なにより、瞳だ。その青い瞳は自身の魅了にかかった者特有の熱に浮かされたようなものではなく、冷静にこちらに向けられている。青く透き通った湖のようなその瞳から、目がはなせない。
彼女を魅了する?ばかな。むしろこちらが魅了されそうな…
そこまで考え、我に返る。めったに見ない美しい瞳に少し調子が狂ったようだ。
まあいい。自分の魅了にかからない女で、こんないい女は久々に出会った。彼女に声を掛けず、誰に声を掛けるというのか。気を取り直し、彼女に向かって歩き出す。
「あの」
と、彼女の方から声を掛けてきた。
「俺に何か用かな、綺麗なお嬢さん」
基本的に声を掛ける女には柔らかく紳士的に。ちょっとくさいかもしれないが、まあ俺なりの気づかいのようなものだ。
酒場の女だろうが貴族の女だろうが、大抵の女はこうして優しく声をかけ笑顔の一つもつければ『勇者に話掛けられた』緊張や妙な警戒心がほぐれる。
「聞きたいことがあるんだけど」
…目の前の女の場合、特に効果はないようだが。まあ、そういう事もあるらしい。
「あー、俺でわかることであれば、なんなりと」
「あの、勇者…さんについて教えてほしいの」
…俺について?
「だめかしら?」
小首をかしげる女。
そんな小さなしぐさが異常に可愛く見え、無意識に手が動きそうになったが、こらえた。なんだか今日は調子がおかしいようだ。
しかし勇者《俺》について知りたいってのは…
「大歓迎だ、お嬢さん」
積極的なのは、嫌いじゃない。
タイトル回収。そして勇者はいろいろ勘違い。
この国では自分の顔を知れ渡っているので、目の前の女も自分が勇者と知っていると思っても仕方がない…という事で。
すれ違いの始まりです。