勇者、女を漁る
【Side:勇者】
城下町。
日は沈み、酒場や飲み食いできる露店がにぎわう時刻。
適当な店で飯を済ませ、今夜の共とする女を求め、あちこちの通りや酒場をめぐるが。
「ピンとこねぇな…」
ファヴニルが求める都合のいい女はなかなか見つからない。
それもそのはず、ファブニルがこの国に来て早数か月。時には地方の村や町に遠征をすることはあると言え、やはりこの城下町にいる時間が最も長い。滞在時間が長いという事は、それだけ相手となる女性も情がわきやすい。最初は後腐れのない関係を築けていたものの、その関係が数度ともなると相手は容姿も人格も(女性関係をのぞけば)申し分のない相手。いけないとは思いつつ本気になりそうな女に、それを察知して離れるファヴニル。
そのようなことを幾度も繰り返すうち、ドワーフの国という事でただでさえ人族の少ないこの城下町のめぼしい女は大体関係済みとなってしまった。ちなみにドワーフの女は身長差の関係で、なるべく遠慮したい。
勇者仲間一行に最低だと言われるのは、こういう所なんだろうなぁと思うが、反省するつもりは一向にない。本命の女がいるわけでもないし、更にこれだけいろいろな女と関係して自分が本気になれる女がいないことを考えると、そもそも自分には本気の恋愛というものができないのではないか?とも思う。
そんな自分であるからこそ、誰にはばかることはない。女性関係が派手になろうがやることやってれば――断っておけばやることとは魔物退治である――文句は言わせない。
(さて、どうするか。最悪娼館に行けばいいし、もう少しぶらついてみるか?)
娼館の女であればたとえ相手は商売。たとえ向こうに情がわいてもプライドからか追いすがる女は少ないと経験上わかっている。
さて、ファヴニルが女を決める際、最も重要視するのは目だ。ファブニルの髪の色から顔立ちの詳細、メイン装備が何であるかまで広まってしまったこの国では、自分が勇者という事は名乗らずとも姿を見ればすぐばれてしまう。そうした中で彼と目を合わせた時にそこに宿る感情が、理知の色を保っているか。ついでに頭がよさそうとか大人っぽいとか、更にいえば胸は大きい方が好きとか髪は金髪が好みとか。理想を上げればきりはないが、とにかく第一条件は目だ。彼の魅力に酔ってしまわぬ目をもっている女。
これが勇者でなければとんだ勘違い野郎であるが、ファヴニルは違う。
冗談でも誇張でもなく、勇者ファヴニルからは魅了の力が微量ではあるが常に出ている。それはファヴニルが勇者となった時神から与えられたものだ。何かと障害の多い魔王討伐の旅で人界の協力を得やすくするための神からのささやかな祝福。男でも女でも彼に好感を抱きやすくなる。そこから友情が芽生えるのか、はたまた愛が芽生えるのか。それは人によるだろう。
もちろんその力は魔族には効かないし、人界のすべての者に効くわけではない。人界の者でも魔力耐性の強いものには効かないし、相性のようなものもある。
しかし相手が女の場合、男よりもその魅了は効きやすいようで、その結果芽生えるものも恋愛感情が多い。そうなると、ファヴニルの求める関係は結べない。
そんなわけでファヴニルは顔立ちやスタイルからこれはと思った女の目を見る。
彼の仲間に言わせればその行為が彼のシンパを増やす原因なわけだが、ファヴニルはかまわない。
(お…)
これはなかなか。
黒く長い、美しい髪の女。
魔術師なのかローブで覆われている身体から除く手や首は色白だ。身体は全体的にほっそりしているが、所々ローブを押し上げるふくらみがある。顔はうつむいている為見えないが、ここまでは合格だ。
と、上から目線の思考をしていたファヴニルの目を、青い光が貫いた。
面倒な女は嫌な勇者。
魅了のせいでいろいろ大変な思いをしてきたということで。
ようやく良さそうな女を補足。