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勇者、城を出る

 

 【Side:勇者】


「はーなーせぇぇぇぇ」

「いやなんだよ!」

「あきらめな!」

「だめでございます」


 ここはドワーフの国ニダヴェ、王城。現在ここには魔王を倒さんと旅をする勇者一行が滞在している。というのも、ここ最近の被害がもっぱらニダヴェ国内なのだ。これまでも雷帝の国スルーズや神聖国家ヴァールなど、様々な国に滞在しては魔物や魔族と対峙してきた。不思議なことに複数の国に同時期に魔物が発生することはほとんどなく、一つの国に集中して出没し、ある程度の期間がたつとその国には魔物が出ることはなくなり、別の国に出没するようになる。勇者一行もそれに合わせて移動する。


 勇者ファヴニルは勇者として旅をするようになってからそれなりの期間がたっている。魔物の出没に合わせて、もういくつもの国をわたってきた。最初は一人だったその旅も、現在はそれなりの賑わいを見せる人数になってきた。

 

「俺は、街に、行く!」

「女の子に会いにいくんでしょ!」

「アタシらだけじゃ不満ってことかい?」

「私ではダメですの?」


 勇者ファヴニル、23歳。旅を続けて数年がたつ。


 人族の平均をわずかに超える身長、こげ茶の髪と緑の瞳は彼の出身国ではよくみられる配色である。しかし、その身体は鍛え上げられ適度な筋肉がついている。敵を前にすれば鋭くなる深い緑の目は、常時であれば緩み、端正な顔立ちと相まって見るものに甘い印象を与える。物腰もきびきびしたもので、非常に目を引く。その上各国で八面六臂の活躍をしているわけで、勇者になってからはさらに女性からの熱視線の絶えない男だ。

 

 彼を慕う女は多い。助けた村娘などはもちろん、その国の王女だの貴族の娘だの女騎士だの、果ては年端もいかぬ幼い娘から夫を持つ夫人まで幅広い層に人気だ。これまでの旅で彼に愛を告げたもの、身体を差し出さんと寝所に忍び込んだものの数は両手両足ではとうに数えることができなくなっている。

 

 勇者とて男。旅の間溜まるものは溜まるし、魔物と闘った夜などは気の高ぶりを鎮めるため、一夜の戯れと身体を結んだ事もある。ただし後腐れのなさそうな者、ありていに言えば追いすがって自分の情を引き留めんとせん者を選んでいる。所詮は勇者の身、魔王を倒すまで定住などできるはずもなく、またいつ死ぬかもわからぬ身では特定の女性など作ることはできない―――というのは建前で、まだまだ遊びたい、っつーか本気の女は重いから、というのが本音だ。勇者とて、普通の男と変わらない所はたくさんあるのだ。旅の間鍛えたのは腕っぷしだけではなく、女を見る目も格段に上がった。それを存分に活かし、今日もちょうどいい女を探しに行こうとしていたのだが。

 

「おまえらは重い!」

「ひどいんだよ!」

「はっきりいってくれるねぇ」

「ひどいですわ…」


 勇者として旅をするうちに増えた女性の仲間のうち、ファヴニルを異性として狙っている女は少なくない。もちろん勇者一行として旅をする以上、腕前は一流の者ばかりである。戦闘ともなれば勇者を中心に陣形を組み、流石勇者一行と思わせる連携で魔物を打ち倒す。が、一歩戦場を外れればその連携はどこへやら。途端に互いの足を引っ張り合い、恋の鞘当を繰り広げる。


 面倒くせぇ。それが率直な感想であり、また遠慮なく旅に同行する女達に言い放つ。


 そもそも彼女たち、ファヴニルに思いを寄せる女を旅に同行させるつもりはなかった。本気の思いに自分が応えるとも思えなかったし、前述したように旅の途中で彼女たち以外の女と身体を重ねることも多々ある。それは想像するだに彼女たちとって辛い事だろう。しかしファヴニルは自分の欲を我慢するつもりもない。不毛極まりない想いはさっさと捨てて自分のことなど忘れた方がずっと建設的だと唱えたのだが、本人たちはどこ吹く風。万が一の可能性を思い、どんなにひどい扱いをされてもいいから旅に同行したい、と言う。もともとが実力が確かな者たちで、戦闘面では足でまといどころか優秀なサポーターとなる。結局はファヴニルが根負けし、旅の仲間となった。


 しかしファヴニルが思っていた以上に彼女たちのアタックは重く、しつこく、過剰だった。

 

「だから言ったよな、俺はお前らを選ばないって。遊びに出るたびにこんなことされちゃ迷惑なんだよ。こんなことでいちいち傷つくなら今からでも遅くねぇ、国に帰れ!」


 しん、と冷たい空気が流れる。

 

 しまった、と。言い過ぎた、と心のどこかで思う。しかし同時にどうでもいいとも思う。

 

 イライラしていた。自分を縛りつけようとする女達に、何度も望みはないと言っているのにそれでも諦めないその思いに。彼女たちから向けられる視線は、ただの恋愛感情に加え、『世界を救う勇者様』という憧れのようなものが多分に含まれている。


 そもそも自分に強く思いを寄せる女の大半が、『勇者』としての自分が危険から助けた事に端を発する。そのため、彼女たちの恋愛感情の裏には勇者への期待という重圧がある、ようにファヴニルには思えるのだ。


 しかし現実はどうか。確かに出現する魔物は確実に倒しているが、時々現れる魔族―――人型の魔物で知性や魔力も強い―――に対しては追い払うことしかできていない。その様ではたして魔王を倒すことなどできるのか?また、魔物が次から次へと発生し、その度に勇者が呼ばれるため、一向に魔王がいる魔界へとつながるゲートへと到達できない。この分では魔王と相見えるころには、自分はよぼよぼの爺さんになっているのでは?


 そのような苛立ちや不安がここ最近のファヴニルの心中に巣食っていた。しかし勇者としての自分に思いを寄せる女性や同行する仲間にはとてもではないが言えない。ぐちゃぐちゃとした想いを発散することができず、心がささくれ立っているのが自分でもわかっていた。それを少しでも解消するため、後腐れのない女たちと身体を重ねようとしているのに、この女共は…!


 ということで、八つ当たり気味に先ほどの言葉を放ってしまったのだ。しかし傷ついているである彼女たちにすぐに謝罪や慰めの言葉を掛けられるほど、今の自分は余裕がない。


 悪いとは思いながらも、暗い雰囲気の彼女たちを置いて城を出た。

 

悩める欲求不満エロ勇者。

魔王がいる国=ニダヴェ=勇者がいる国です。

勇者ミーツ魔王まであとちょっと。

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