桜の木の下に
小学校からの帰り道、古い小さな神社に寄り道して帰宅した俺は母さんにさっきあったこと話をした。
すると母親は怪訝な顔をした。
「どうしたの母さん」
「琉斗あんた、桜の木の下で会った子、浴衣着ていただろう?」
「なんで知ってるのさ?花見してたんだって。」
「よく聞きな、その子はね幽霊なんだ。」
「まさか〜!」
「ベージュの浴衣だろう?」
「え、うん、ちょっと古風な感じだった。・・・
あれ、ちょっと待って。その子、影なかった気が・・・。」
今になって鮮明に蘇ってくる。
「あの桜はね、昔、江戸時代に貧乏だった親たちが
子どもを殺して埋めた場所なんだよ。」
「え、そんな話信じられないよ。」
「とにかく、近付いたら危ないからね。」
「銀ちゃんはそんな風に見えないけどなぁ・・・。」
「見えなくても幽霊なんだよ。相手がそのつもりなくても悪い方へ誘われてしまう。
聞いたんだよ。親戚の人たちに。
その子に会った後に事故に遭ったり火事になったりしたって。」
「え、うそ・・・。」
「だから、あんたも気をつけなさい。」
「う、うん・・・。」
「あんたもそろそろ友達を作りなさい、幽霊じゃなくて現実の・・・。」
琉斗はもはや母親の話など頭に入って来ない。
まさか、信じられない。
桜の木の下で出会ったあの子が・・・仲良くなったあの子が実は幽霊で悪霊だったなんて。
「銀ちゃんってさ・・・幽霊なの?」
「そうよ。」
銀が琉斗の手に触れようとしてすり抜けた。
本当に幽霊なんだ・・・。
「聞いたんだ。君が正気を吸い取るって。」
「失礼ね!私、そんなことしないもん!」
「だって親戚の人たちは、君に会った後、事故に遭ったり、火事になったりしたって言ってたんだよ?」
銀がため息混じりに言った。
「あのねー、私、会った人たちのことずっと見てたけど、
お酒飲んで運転したり、友達とはしゃいで火の消し忘れしたり、
そんなの誰だって事故が起きるわよ。」
「え、そ、そうだったの?」
「そうよ!何でもかんでも幽霊のせいにされちゃたまったもんじゃないわよ。」
銀はぷりぷり怒っている。
「ご、ごめん、俺知らなくて・・・」
「まぁいいわ。知らなかったんだし許してあげる。」
「ホッ・・・ありがとう。」
「それで、琉斗君は怖くないの?私のこと。」
「え、どして?」
「私、幽霊なんだよ?」
「んー、幽霊って言っても銀ちゃんは可愛いからさ。」
その言葉に銀の顔が赤くなる。
さすがに照れたらしい。
「あ、ありがと・・・。」
「桜一緒に見たい。」
「うん」
二人は桜を見上げた。
「ねぇ、琉斗君は桜好き?」
「うん!大好き!銀ちゃんは?」
「私は大っ嫌い。だって、この桜の木はパパとママに無理心中されて親戚の人に埋められた場所なの。」
母さんの話とは若干違うけど、
やっぱり殺されて埋められたというのは本当だったんだ・・・。
「え・・・じゃあなんで一緒に見てくれてるの?」
「だって、私はここから動けないし。それに琉斗君が見てるから。」
「俺が見てるから?」
「うん。」
親に殺されたなんて分からないくらい明るくてサバっとしてるように見えるけど、
あの話はきっと本当なんだよね。
「俺がいるよ。来年も再来年も、桜が嫌なら別の場所で花見しよう。」
「私はここから離れられないからそれは無理だよ。
それに桜の時期しかいられない。」
「だったら毎年ここへ来るよ。」
「本当に?約束してくれる?」
「うん」
「ありがとう琉斗君・・・優しいなぁ・・・本当にありがとう。」
桜が花吹雪となって散っていく。
夏になり、琉斗は独りぼっちになった。
けれど、琉斗はもう前ほど寂しくはなかった。




