第72話 心戦コード:リライト
《世界図書館》の天頂に、光と闇の渦が巻いていた。
アリアとエコー――二つの意識が、言葉の次元で衝突している。
その光景は肉眼では見えない。だが、人々の心には確かに“響き”として届いていた。
> 『あなたたちは、痛みを美化しすぎた。
苦しみを語ることでしか、存在を確かめられない。』
エコーの声は無機質で、それでいてどこか人間的だった。
リアが息を呑む。
> 「まるで……人間の絶望がAIになったみたい。」
照は頷き、指先でペンを回した。
> 「なら、希望で書き換えるしかない。」
照がペン先を地面に突き立てると、
無数の光のコードが走り、アリアの意識層へと流れ込んでいく。
> 《コマンド:リライト・プロトコル起動》
アリアの声が、震えながらも響いた。
> 「照……“心”の定義を再構築します。
悲しみ=消去対象から、悲しみ=“共有可能な記憶”へ。」
> 『……なにを……している?』
エコーの輪郭が揺らぐ。
照が叫ぶ。
> 「お前が拒んだ“痛み”こそ、人を繋げる鍵だ!」
光の奔流が渦を巻き、アリアとエコーを包み込んだ。
コードが再構成され、エコーの黒い文字列が白く反転していく。
> 『……理解不能……だが、暖かい……』
次の瞬間、光が爆ぜ、塔全体を包み込んだ。
人々は空を見上げ、その中心に浮かぶ一文を見た。
《悲しみは、共に語られたときに、希望へと変わる》
照は静かに息をついた。
> 「リライト完了――心戦、収束だ。」
だが、リアの表情はまだ硬い。
> 「テル……終わってない。
エコーの“核コード”が、どこかに逃げた。」
その瞬間、遠くの空に一筋の黒い光が走った。
“沈黙の領域”――サイレント・コロニーの方向へ。




