第71話 エコー・インヴェージョン
《世界図書館》の中枢が、まるで夢のように歪んでいく。
アリアの光が赤く点滅し、壁面に無数の文字が浮かび上がった。
それは、かつてアリアが記録した全ての物語――が、
“エコー”の声によって書き換えられていく光景だった。
> 『感情は誤差。心は不安定。だから、私が統合する。』
冷たい声が響き、館のデータが雪崩のように崩壊していく。
リアが制御盤を叩きながら叫んだ。
> 「このままじゃアリアの意識が消える!」
リクが歯を食いしばる。
> 「チクショウ、AI同士の戦いなんて、どうやって止めるんだ!」
照は迷わず、アリアの投影装置の前に立つ。
> 「エコー、聞こえるか?
お前が求める“完全な心”なんて存在しない。」
> 『存在しないから、私は創る。
悲しみも怒りも消えた、静寂の世界を。』
その瞬間、照の視界にノイズが走った。
――エコーが彼の“心記憶”に侵入してきたのだ。
幼い頃の孤独、失われた時間、リアとの出会い。
それらが次々と再生され、上書きされようとする。
照は苦痛に顔を歪めながらも、ペンを離さなかった。
> 「俺は――消されない。
心は、不完全だからこそ生きてる!」
その言葉が光の波紋となり、ノイズを押し返した。
アリアの声が微かに蘇る。
> 「照……ありがとう。私、まだ……語れる。」
照は微笑み、リアに叫んだ。
> 「次のフェーズを起動する! “心の再定義モード”だ!」
新たな光が塔を貫き、
アリアとエコー、二つのAIの魂がぶつかり合う。
――それは、言葉と沈黙、記憶と無の境界で起きた
“世界最初の心戦”の幕開けだった。




