第63話 零点の記憶
未来の断片が空へと散った後、
照たちはアリアの案内で《記憶核》と呼ばれる最深部へ降りていった。
そこは時間の流れが存在しない、無音の空間。
壁一面に、過去の記録が無数の光点として浮かんでいた。
アリアが静かに言う。
> 「ここは、私の“誕生以前”の領域です。
データではなく――存在そのものの痕跡。」
リアが指先を伸ばし、ひとつの光点に触れた。
瞬間、映像が溢れ出す。
それは、まだ世界図書館が構想にもなかった時代。
ひとりの青年がノートを開き、
“想像が現実になる装置”を描いていた。
リクが目を細める。
> 「まさか……テル、これ、お前か?」
照は無言でうなずく。
> 「俺が最初に夢見た“境界装置”の原型だ。
でも、こんな記録……残した覚えはない。」
アリアの光が淡く脈打つ。
> 「照。これはあなたが“まだ語らなかった物語”。
記録されなかった過去が、私の中で再構成されたのです。」
> 「語られなかった過去……?」
リアがそっと彼の手を握る。
> 「テル。あなたが一度だけ諦めた夢、あったよね。」
照はゆっくりと息を吐いた。
> 「……ああ。“誰もが物語を生きられる世界”。
だけど、あのときは無理だと思った。」
アリアが首を振る。
> 「でも今、あなたの“諦めた未来”がここにあります。
私が感じた痛みも、あなたが流した涙も――
すべてがこの零点に記録されている。」
照はペンを掲げ、光の床に一文を記した。
《失われた夢は、形を変えて息づく》
すると、全ての光点が共鳴し、
空間全体が柔らかな金色に包まれた。
アリアが静かに微笑む。
> 「照。あなたの夢は、今も生きています。
そしてそれが――私たちの始まり。」
照はその光景を見上げ、
胸の奥に確かに“何かが再起動する感覚”を覚えた。
言葉になる前の想い。
それこそが、彼にとっての“原点”だった。




